チェビシェフ II型フィルタの理論

逆チェビシェフフィルタの振幅特性・零点・極配置

本稿では、チェビシェフII型(逆チェビシェフ)フィルタの理論を解説する。 通過域が単調減少で、阻止域に等リップル特性を持つ点が I型との最大の違いである。 I型の基礎理論はI型の理論を参照。

振幅2乗特性

II型の振幅2乗特性は以下で定義される:

\begin{equation} |H(\omega)|^2 = \frac{1}{1 + \dfrac{1}{\varepsilon^2 T_n^2(1/\omega)}} \label{eq:H2-type2} \end{equation}

I型の式 $|H(\omega)|^2 = \dfrac{1}{1 + \varepsilon^2 T_n^2(\omega)}$ と比較すると、 $\omega$ が $1/\omega$ に、$\varepsilon^2$ が $1/\varepsilon^2$ に置き換わっている。

I型との振幅特性の違い

特性 I型 II型
通過域($\omega < 1$) 等リップル 単調減少(最大平坦に近い)
阻止域($\omega > \omega_s$) 単調減少 等リップル
DCでのゲイン 奇数次: 0 dB、偶数次: $-r$ dB 常に 0 dB
遷移帯域の急峻さ より急峻 やや緩やか
チェビシェフI型とII型の振幅特性比較。I型は通過域で等リップル・阻止域で単調減少、II型は通過域で単調減少・阻止域で等リップル
図1: I型と II型の振幅特性の比較($n = 12$)

阻止域減衰量パラメータ

II型では、通過域リップルではなく阻止域の最小減衰量 $A_s$ [dB] を指定する。 リップルパラメータ $\varepsilon$ は以下の関係で決まる:

\begin{equation} \varepsilon = \frac{1}{\sqrt{10^{A_s/10} - 1}} \label{eq:epsilon-type2} \end{equation}
阻止域減衰量 $A_s$ [dB]$\varepsilon$
200.1005
300.0317
400.0100
500.00316
600.00100

零点の存在

II型の最大の特徴は、虚軸上に零点(伝達零点)を持つことである。 I型は全極型(零点なし)だが、II型は極と零点の両方を持つ。

零点は阻止域内の特定の周波数で振幅応答を完全にゼロにする。 これが阻止域での等リップル特性を生み出す。

零点の位置

$n$ 次のII型フィルタは、$\lfloor n/2 \rfloor$ 組の複素共役零点対を持つ。 零点は虚軸上($s = \pm j\omega_z$)に位置する:

\begin{equation} z_k = \pm j\omega_s \sec\left(\frac{(2k-1)\pi}{2n}\right), \quad k = 1, 2, \ldots, \lfloor n/2 \rfloor \label{eq:zeros} \end{equation}

ここで $\omega_s$ は阻止域端周波数、$\sec(\theta) = 1/\cos(\theta)$ である。

零点の物理的意味: 零点周波数 $\omega_z$ では $|H(j\omega_z)| = 0$ となり、その周波数の信号は完全に遮断される。 阻止域内に複数の零点が分布することで、等リップルの減衰特性が実現される。

零点の数値例($n = 5$、$\omega_s = 1$)

$k$角度 $(2k-1)\pi/(2n)$$\sec(\cdot)$零点 $z_k$
1$\pi/10 = 18°$1.0515$\pm j1.0515$
2$3\pi/10 = 54°$1.7013$\pm j1.7013$

5次フィルタでは2組(4個)の零点がある。$k = 3$ は $\pi/2 = 90°$ で $\sec(90°) = \infty$ となるため、 奇数次では無限遠に1つの零点があると解釈される(実質的に零点なし)。

極の位置

II型の極 $q_k$ は、I型の極 $p_k$ から導出できる:

\begin{equation} q_k = \frac{\omega_s^2}{p_k^*} \label{eq:poles-type2} \end{equation}

ただし、$p_k^*$ は I型の極の複素共役である。 この変換により、II型の極 $q_k$ は I型の $p_k$ よりも虚軸から離れた位置(より減衰が大きい)に配置される。

極の配置の違い: I型の極 $p_k$ は楕円の内側に近い位置にあるが、 II型の極 $q_k$ は楕円の外側に近い位置に配置される。 このため、II型は I型より群遅延特性が良好である(ただしロールオフは緩やか)。

伝達関数の構成

II型の伝達関数は、極と零点の両方を含む:

\begin{equation} H(s) = K \cdot \frac{\prod_{k}(s^2 + \omega_{z,k}^2)}{\prod_{k}(s - q_k)(s - q_k^*)} \label{eq:transfer-type2} \end{equation}

分子の $(s^2 + \omega_{z,k}^2)$ が零点を表し、$s = \pm j\omega_{z,k}$ で分子がゼロになる。

2次セクションへの分解

II型の2次セクションは、零点を含むバイカッド形式になる:

\begin{equation} H_k(s) = K_k \cdot \frac{s^2 + \omega_{z,k}^2}{s^2 + \frac{\omega_{0,k}}{Q_k}s + \omega_{0,k}^2} \label{eq:biquad-type2} \end{equation}

これはノッチ付きローパス(notch + lowpass)の特性を持つ。 零点周波数 $\omega_{z,k}$ で完全な減衰、極周波数 $\omega_{0,k}$ 付近でピークを持つ。

I型とII型の使い分け

条件推奨
通過域の平坦性が重要 II型(通過域リップルなし)
遷移帯域の急峻さが最優先 I型(同じ次数でより急峻)
阻止域の特定周波数を完全遮断したい II型(零点による完全減衰)
回路実装を簡単にしたい I型(全極型で零点回路不要)
群遅延特性を少しでも改善したい II型(極が虚軸から離れている)

実用上の注意: II型は零点を持つため、アナログ回路での実装がI型より複雑になる。 Sallen-KeyやMFBでは零点を直接実現できないため、 状態変数フィルタやバイカッド回路が必要となる。 詳細は回路編を参照。