線形独立と線形従属

このページの目標

線形独立線形従属の概念を、定義・幾何学的意味・判定方法の3つの視点から理解する。初学者がつまずきやすいポイントを重点的に解説する。

1. 直感的理解

1.1 「余計な」ベクトルがあるか?

ベクトルの集まりを考えたとき、その中に「他のベクトルの組み合わせで作れるもの」があれば、それは「余計」である。

例:$\boldsymbol{v}_1 = (1, 0)$, $\boldsymbol{v}_2 = (0, 1)$, $\boldsymbol{v}_3 = (2, 3)$ を考える。

$\boldsymbol{v}_3 = 2\boldsymbol{v}_1 + 3\boldsymbol{v}_2$ なので、$\boldsymbol{v}_3$ は「余計」。

x y 2v₁ 3v₂ v₁ v₂ v₃ O 1 2 3 1 2 3
図1: v₃ は v₁, v₂ から作れる — 原点から x 方向に 2v₁ 進み、y 方向に 3v₂ 進むとちょうど v₃ に到達する

1.2 線形独立の意味

線形独立:どのベクトルも、他のベクトルの組み合わせでは作れない。

線形従属:少なくとも1つのベクトルが、他のベクトルの組み合わせで作れる。

2. 正式な定義

2.1 線形結合

ベクトル $\boldsymbol{v}_1, \ldots, \boldsymbol{v}_k$ の線形結合とは:

$$c_1\boldsymbol{v}_1 + c_2\boldsymbol{v}_2 + \cdots + c_k\boldsymbol{v}_k$$

スカラー $c_1, \ldots, c_k$ を係数という。

2.2 線形独立の定義

定義:ベクトル $\boldsymbol{v}_1, \ldots, \boldsymbol{v}_k$ が線形独立であるとは:

$$c_1\boldsymbol{v}_1 + c_2\boldsymbol{v}_2 + \cdots + c_k\boldsymbol{v}_k = \boldsymbol{0}$$

が成り立つのは $c_1 = c_2 = \cdots = c_k = 0$ のときに限ること。

2.3 線形従属の定義

定義:ベクトル $\boldsymbol{v}_1, \ldots, \boldsymbol{v}_k$ が線形従属であるとは:

\begin{equation}c_1\boldsymbol{v}_1 + c_2\boldsymbol{v}_2 + \cdots + c_k\boldsymbol{v}_k = \boldsymbol{0} \label{eq:linearly-dependent}\end{equation}

を満たす非自明な係数(すべてが0ではない)が存在すること。

2.4 定義の言い換え

線形従属 ⇔ 少なくとも 1 つのベクトルが、他のベクトルの線形結合で表せる。

これは、定義式 $\eqref{eq:linearly-dependent}$ を変形すれば示せる。非自明な係数のうち $c_1 \neq 0$ であるとすると(番号の付け替えで、どれか非零のものを最初に持ってくればよい):

  1. $\eqref{eq:linearly-dependent}$ の $c_2\boldsymbol{v}_2 + \cdots + c_k\boldsymbol{v}_k$ を右辺へ移項する: $$c_1\boldsymbol{v}_1 = -c_2\boldsymbol{v}_2 - \cdots - c_k\boldsymbol{v}_k$$
  2. 両辺を $c_1 \neq 0$ で割る: $$\boldsymbol{v}_1 = -\dfrac{c_2}{c_1}\boldsymbol{v}_2 - \cdots - \dfrac{c_k}{c_1}\boldsymbol{v}_k$$

このように$\boldsymbol{v}_1$ が他のベクトルの線形結合として表せた。$c_1$ の代わりに他の $c_i \neq 0$ でも同じ議論ができるので、「非自明な線形結合で 0 になる」ことと「少なくとも 1 つのベクトルが他の線形結合で書ける」ことは同値である。

3. 幾何学的意味

3.1 2次元の場合

2つのベクトル $\boldsymbol{v}_1$, $\boldsymbol{v}_2$ が:

  • 線形独立:同一直線上にない(平面を張る)
  • 線形従属:同一直線上にある(平行または片方が零ベクトル)
v₁ v₂ 線形独立 v₁ v₂ 線形従属(平行)

3.2 3次元の場合

3つのベクトル $\boldsymbol{v}_1$, $\boldsymbol{v}_2$, $\boldsymbol{v}_3$ が:

  • 線形独立:同一平面上にない(空間を張る)
  • 線形従属:同一平面上にある
線形独立 3 つの方向に広がる (空間を張る) x y z v₁ v₂ v₃ O 線形従属 3 つとも同じ斜めの平面上 同一平面 x y z v₁ v₂ v₃ O
図2: 3 次元の場合 — 左: 線形独立な 3 ベクトルは空間を張る (平行六面体)。右: 線形従属な 3 ベクトルは同一平面に押し込められている

3.3 一般化

$n$ 次元空間では:

  • $n+1$ 個以上のベクトルは必ず線形従属
  • $n$ 個の線形独立なベクトルで空間全体を張れる

「基底」の復習 (詳しくは 第1章 §5)

空間 $V$ の基底(basis)とは、次の 2 条件をともに満たすベクトルの組 $\{\boldsymbol{e}_1, \ldots, \boldsymbol{e}_n\}$ のこと:

  1. 線形独立 — どの $\boldsymbol{e}_i$ も他の組み合わせで作れない(無駄がない)
  2. $V$ を張る — $V$ の任意のベクトルが $\boldsymbol{e}_1, \ldots, \boldsymbol{e}_n$ の線形結合として表せる(過不足なく届く)

直感的には「空間全体をぴったり覆う最小限の道具一式」。少なすぎるとカバーできず、多すぎると無駄が出る。

例:

  • $\mathbb{R}^2$ の標準基底 $\{(1,0), (0,1)\}$ — 2 本で平面を張る
  • $\mathbb{R}^3$ の標準基底 $\{(1,0,0), (0,1,0), (0,0,1)\}$ — 3 本で空間を張る
  • $\mathbb{R}^2$ で $\{(1,0), (1,1)\}$ も基底(標準基底以外も基底になりうる)
  • $\mathbb{R}^2$ で $\{(1,0), (2,0)\}$ は基底ではない(線形従属で y 方向に届かない)

基底に含まれるベクトルの個数を空間の次元(dimension)という。$\mathbb{R}^n$ は $n$ 次元。基底が一意でないこと、多項式・行列・関数空間の基底などの詳細は 第1章 §5 を参照。

4. 判定方法

この節の前提 — 以下では行列のランク (rank)行列式 (det) を使う。それぞれの詳しい定義は:

  • ランク: 列ベクトル(または行ベクトル)のうち線形独立なものの最大個数。詳しくは 第11章
  • 行列式: 正方行列に対して定義されるスカラー値で、$\det(A) \neq 0$ ⇔ 列ベクトルが線形独立、と同値。導出や計算法は 第3章第5章、導入は 入門 §7

本節では「線形独立かどうかを機械的に判定する道具」として紹介しておく。

4.1 行列のランクを使う

ベクトルを列ベクトルとして並べた行列 $A = (\boldsymbol{v}_1 | \boldsymbol{v}_2 | \cdots | \boldsymbol{v}_k)$ を作る。

判定法:$\boldsymbol{v}_1, \ldots, \boldsymbol{v}_k$ が線形独立 ⇔ $\mathrm{rank}(A) = k$

直感的には、$\mathrm{rank}(A)$ は「行列 $A$ の列ベクトルが張る空間の次元」を表す。$k$ 本のベクトルを並べて全部が線形独立ならランクは $k$、線形従属があればランクは $k$ 未満になる。

4.2 正方行列の場合

ベクトルの数と次元が等しいとき($n$ 次元空間で $n$ 個のベクトル):

判定法:$\boldsymbol{v}_1, \ldots, \boldsymbol{v}_n$ が線形独立 ⇔ $\det(A) \neq 0$

行列式が 0 になるのは「列ベクトルの張る空間が $n$ 次元より小さくなる」ときで、これはちょうど線形従属を意味する。第5章ではこの事実を「$\det(A)$ = 平行六面体の(符号付き)体積」という幾何的解釈から見直す。

4.3 具体例

$\boldsymbol{v}_1 = (1, 2, 3)$, $\boldsymbol{v}_2 = (4, 5, 6)$, $\boldsymbol{v}_3 = (7, 8, 9)$ は線形独立か?

$$A = \begin{pmatrix} 1 & 4 & 7 \\ 2 & 5 & 8 \\ 3 & 6 & 9 \end{pmatrix}$$ $$\det(A) = 1(45-48) - 4(18-24) + 7(12-15) = -3 + 24 - 21 = 0$$

$\det(A) = 0$ なので線形従属。実際、$\boldsymbol{v}_3 = 2\boldsymbol{v}_2 - \boldsymbol{v}_1$。

4.4 関数の線形独立性:ロンスキアン ★発展(余力のある読者向け)

この節は発展的な内容 — ここまでの「ベクトル = 数ベクトル」の枠を超え、関数を「無限次元ベクトル」として扱う話。微分法と行列式を組み合わせる応用例で、興味のある読者だけ読めばよい(中級「関数空間」の予習にもなる)。

微分可能な関数 $f_1, \ldots, f_n$ に対し、ロンスキアン(Wronskian)

$$W(f_1, \ldots, f_n) = \det\begin{pmatrix} f_1 & \cdots & f_n \\ f_1' & \cdots & f_n' \\ \vdots & & \vdots \\ f_1^{(n-1)} & \cdots & f_n^{(n-1)} \end{pmatrix}$$

がある点で $W \neq 0$ ならば、関数は線形独立である。

注意:逆は一般に成り立たない。$W \equiv 0$(恒等的に 0)だからといって必ずしも線形従属ではない例が存在する(例えば Peano の反例)。ただし $f_1, \ldots, f_n$ が解析関数の場合、$W \equiv 0$ ⇔ 線形従属が成り立つ。

例:$1, x, x^2$ が $C(\mathbb{R})$ で線形独立であることは、$c_1 + c_2 x + c_3 x^2 = 0$ がすべての $x$ で成り立つには $c_1 = c_2 = c_3 = 0$ が必要であることからわかる。ロンスキアンでも確認できる:

$$W(1, x, x^2) = \det\begin{pmatrix} 1 & x & x^2 \\ 0 & 1 & 2x \\ 0 & 0 & 2 \end{pmatrix} = 2 \neq 0$$

5. よくある誤解

5.1 「直交」と「線形独立」は違う

直交(内積が0)⇒ 線形独立(成り立つ)

線形独立 ⇒ 直交(成り立たない)

反例:$(1, 0)$ と $(1, 1)$ は線形独立だが直交ではない。

5.2 零ベクトルを含むと線形従属

$\boldsymbol{0}$ を含むベクトルの組は必ず線形従属。

なぜなら $1 \cdot \boldsymbol{0} + 0 \cdot \boldsymbol{v}_1 + \cdots = \boldsymbol{0}$ が成り立つから。

5.3 ベクトル1本でも線形独立かどうか考えられる

$\boldsymbol{v} \neq \boldsymbol{0}$ なら $\{\boldsymbol{v}\}$ は線形独立。

$\boldsymbol{v} = \boldsymbol{0}$ なら $\{\boldsymbol{v}\}$ は線形従属。

6. まとめ

本ページのポイント

  • 線形独立:$\sum c_i\boldsymbol{v}_i = \boldsymbol{0}$ ならすべての $c_i = 0$
  • 線形従属:非自明な線形結合で零ベクトルが作れる
  • 幾何学的意味:2D で同一直線上にない、3D で同一平面上にない
  • 判定:行列のランク、または行列式
  • $n$ 次元空間で $n+1$ 個以上のベクトルは必ず線形従属

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