第16章 ロピタルの定理
L'Hôpital's Rule — 不定形極限の計算法
ロピタルの定理は、日本の高校数学の学習指導要領には含まれていない大学初年級の内容であるが、不定形の極限を計算する強力な手法であり、微分の応用として重要なので紹介する。
※ 高校の定期試験や大学入試では、ロピタルの定理を使わなくても解けるように問題が作られていることが多い。
目次
16.1 不定形とは
極限を直接計算しようとすると、$\dfrac{0}{0}$ や $\dfrac{\infty}{\infty}$ のような形になることがある。これを不定形という。
- $\dfrac{0}{0}$ 型
- $\dfrac{\infty}{\infty}$ 型
- $0 \cdot \infty$ 型
- $\infty - \infty$ 型
- $0^0$、$1^\infty$、$\infty^0$ 型
16.2 ロピタルの定理($\dfrac{0}{0}$ 型)
$\displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = 0$, $\displaystyle\lim_{x \to a} g(x) = 0$ で、$\displaystyle\lim_{x \to a} \frac{f'(x)}{g'(x)}$ が存在するとき:
$$\lim_{x \to a} \frac{f(x)}{g(x)} = \lim_{x \to a} \frac{f'(x)}{g'(x)}$$※ 厳密には「$|a| < \infty$」と「$a$ の近くで $f$, $g$ が微分可能」と「$a$ の近くで $g'(x) \neq 0$」も必要。
- 極限は $\dfrac{0}{0}$ または $\dfrac{\infty}{\infty}$ 型?
- 分子・分母はそれぞれ微分可能?
- $\displaystyle\lim \frac{f'(x)}{g'(x)}$ は存在する?(振動しない?)
16.2.1 直感的な理解:なぜ「傾きの比」が答えになるのか
ロピタルの定理が成り立つ理由を、まず接線による近似で直感的に理解しよう。
$x \to 0$ のとき $f(x) \to 0$, $g(x) \to 0$ となる場合、$x=0$ の近くで$f(x), g(x)$ は原点を通る傾き $f'(0), g'(0)$ の直線で近似できる:
$$f(x) \approx f'(0) x$$ $$g(x) \approx g'(0) x$$したがって:
$$\frac{f(x)}{g(x)} \approx \frac{f'(0) \bcancel{x}}{g'(0) \bcancel{x}} = \frac{f'(0)}{g'(0)}$$つまり、「どちらが速くゼロに近づくか」の競争であり、その速さを決めるのが接線の傾きである。
x = 0 での傾き
$f'(0) = -2 \cdot 0 = 0$(青)
$g'(0) = 1$(赤)
x = 0 での傾きの比 = 極限値
$\dfrac{f'(0)}{g'(0)} = \dfrac{0}{1} = 0$
∴ $\displaystyle\lim_{x \to 0} \frac{-x^2}{x} = 0$
$\dfrac{-x^2}{x}$ で $x \to 0$ のとき、両方ゼロに向かうが:
- $-x^2$ は x=0 付近ですでに傾き $0$ に近い → ゼロへの到達が速い
- $x$ は傾き $1$ で直線的に 0 に向かう → ゼロへの到達は普通
「速い ÷ 普通」= $0/1 = 0$ が極限値になる。
16.2.2 証明1:微分の定義による簡易証明
※ この証明では、$a$ が有限値で、$f(x)$, $g(x)$ が $x=a$ で微分可能であることを仮定する簡易版である($x - a$ を使うため $a = \pm\infty$ は不可)。
$f(a) = g(a) = 0$、$x \neq a$ のとき、次のように書き換えることができる:
$$\frac{f(x)}{g(x)} = \frac{f(x) - f(a)}{g(x) - g(a)} = \frac{\dfrac{f(x) - f(a)}{x - a}}{\dfrac{g(x) - g(a)}{x - a}}$$$x \to a$ のとき、分子と分母はそれぞれ微分の定義より
$$\lim_{x \to a} \frac{f(x) - f(a)}{x - a} = f'(a), \quad \lim_{x \to a} \frac{g(x) - g(a)}{x - a} = g'(a)$$であるから次式が成り立つ。
$$\lim_{x \to a} \frac{f(x)}{g(x)} = \frac{f'(a)}{g'(a)}$$16.2.3 証明2:コーシーの平均値定理による厳密な証明
コーシーの定理は有限区間に適用されるため $a$ を有限値とするが、$f(x)$, $g(x)$ が $x=a$ の近傍で微分可能であれば十分で、$x=a$ 自体では微分不能でもよい(証明1より適用範囲が広い)。
$f(a) = g(a) = 0$ と仮定する($x = a$ で未定義や不連続でも、極限値を使って連続に拡張できる)。
Step 1:コーシーの平均値定理より $a$ と $x$ の間に次式が成り立つ点 $c$ が存在する。
\begin{equation} \frac{f(x) - f(a)}{g(x) - g(a)} = \frac{f'(c)}{g'(c)} \label{eq:cauchy} \end{equation}Step 2:$f(a) = g(a) = 0$ と仮定しているから、式 $\eqref{eq:cauchy}$は次のように書ける。
$$ \frac{f(x) - \bcancel{f(a)}}{g(x) - \bcancel{g(a)}} = \frac{f(x)}{g(x)} = \frac{f'(c)}{g'(c)} $$Step 3:点 $c$ は、$x$ と $a$ の間にあるので、$x \to a$ のとき $c \to a$ となる(挟み撃ちの原理)。
$$\lim_{x \to a} \frac{f(x)}{g(x)} = \lim_{c \to a} \frac{f'(c)}{g'(c)} = \lim_{x \to a} \frac{f'(x)}{g'(x)}$$ステップ1:不定形の確認
$x \to 0$ のとき、分子 $e^x - 1 \to e^0 - 1 = 0$、分母 $x \to 0$ なので $\dfrac{0}{0}$ 型の不定形。
ステップ2:ロピタルの定理の条件確認
分子と分母が微分可能か確認:
- 分子の導関数:$(e^x - 1)' = e^x$(すべての $x$ で微分可能)
- 分母の導関数:$(x)' = 1 \neq 0$(条件を満たす)
ステップ3:ロピタルの定理を適用
分子と分母をそれぞれ微分して、新しい極限を計算:
$$\lim_{x \to 0} \frac{e^x - 1}{x} = \lim_{x \to 0} \frac{(e^x - 1)'}{(x)'} = \lim_{x \to 0} \frac{e^x}{1}$$ステップ4:新しい極限を計算
$e^x$ は $x=0$ で連続なので、直接代入できる:
$$\lim_{x \to 0} \frac{e^x}{1} = \frac{e^0}{1} = \frac{1}{1} = 1$$意味:$x \approx 0$ の近くで、$e^x - 1 \approx x$ という近似が成り立つ(指数関数の接線傾きが1)。
ステップ1:不定形の確認
$x \to 0$ のとき、分子 $1 - \cos x \to 1 - 1 = 0$、分母 $x^2 \to 0$ なので $\dfrac{0}{0}$ 型。
ステップ2:第1回のロピタル適用
分子と分母の導関数:
- 分子:$(1 - \cos x)' = 0 - (-\sin x) = \sin x$
- 分母:$(x^2)' = 2x$
ステップ3:新しい極限の形式判定
$x \to 0$ のとき、$\sin x \to 0$、$2x \to 0$ なので、またも $\dfrac{0}{0}$ 型。
→ ロピタルの定理をもう1回適用できる。
ステップ4:第2回のロピタル適用
分子と分母をもう一度微分:
- 分子:$(\sin x)' = \cos x$
- 分母:$(2x)' = 2$
ステップ5:最終的な極限を計算
$\cos x$ は $x=0$ で連続なので:
$$\lim_{x \to 0} \frac{\cos x}{2} = \frac{\cos 0}{2} = \frac{1}{2}$$意味:$x \approx 0$ の近くで、$1 - \cos x \approx \dfrac{x^2}{2}$ という近似が成り立つ(Taylor展開)。
ステップ1:不定形の確認
$x \to 0$ のとき、分子 $\sin x \to 0$、分母 $x \to 0$ なので $\dfrac{0}{0}$ 型。
ステップ2:ロピタルの定理を形式的に適用
分子と分母の導関数を計算:
- 分子:$(\sin x)' = \cos x$
- 分母:$(x)' = 1$
ステップ3:新しい極限を計算
$\cos x$ は連続なので:
$$\lim_{x \to 0} \frac{\cos x}{1} = \cos 0 = 1$$
⚠️ 重要な警告:循環論法の危険性
$(\sin x)' = \cos x$ という事実の証明には、実はこの極限値 $\displaystyle\lim_{x \to 0} \frac{\sin x}{x} = 1$ を使う必要がある。
つまり、「この極限を求めるためにロピタルを使い、ロピタルを正当化するためにこの極限を使う」という循環論法に陥っている。
正しい方法:この極限は幾何学的な議論(挟み撃ちの原理、面積評価)で証明すべきである。詳しくは第9章を参照してください。
試験での使用:ただし、自分の求めた答えが合っているか「検算」するのにロピタルを使うのはOKである。
16.2.4 繰り返し適用について
$f'(a) = g'(a) = 0$ かつ $\displaystyle\lim_{x \to a}\dfrac{f''(x)}{g''(x)}$ が存在するなら、 ロピタルの定理の条件を満たすので、再び定理を適用できる(定理の条件を満たす限り何度でも適用できる!)。
$$\lim_{x \to a} \frac{f(x)}{g(x)} = \lim_{x \to a} \frac{f'(x)}{g'(x)} = \lim_{x \to a} \frac{f''(x)}{g''(x)} = \cdots$$※ ただし、ロピタルの定理を適用し、分母子を微分するほど式が簡単になるとは限らない。微分で複雑になる場合は別の方法も検討すべきである。
16.3 ロピタルの定理($\dfrac{\infty}{\infty}$ 型)
$\displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = \pm\infty$, $\displaystyle\lim_{x \to a} g(x) = \pm\infty$ で、$\displaystyle\lim_{x \to a} \frac{f'(x)}{g'(x)}$ が存在するとき:
$$\lim_{x \to a} \frac{f(x)}{g(x)} = \lim_{x \to a} \frac{f'(x)}{g'(x)}$$※ $\dfrac{0}{0}$ 型と同様、「$a$ の近くで微分可能」「$g'(x) \neq 0$」が必要。$a = \pm\infty$ でもよい。
なぜ成り立つか:$\dfrac{\infty}{\infty}$ 型の極限は、$\dfrac{f(x)}{g(x)} = \dfrac{1/g(x)}{1/f(x)}$ と変形することで $\dfrac{0}{0}$ 型に帰着できる。厳密な証明は $\dfrac{0}{0}$ 型より技術的に複雑だが、結論は同じ形になる。
$x \to \infty$ のテクニック:$t = 1/x$ と置換すれば $x \to \infty$ は $t \to 0^+$ に帰着できる。これにより証明1,2($|a| < \infty$ を仮定)の枠組みで扱える。
ステップ1:不定形の確認
$x \to \infty$ のとき、分子 $\ln x \to \infty$、分母 $x \to \infty$ なので $\dfrac{\infty}{\infty}$ 型。
直感的には:「対数関数も無限大に向かうし、$x$ も無限大に向かう。どちらが速く無限大に向かうのか?」という競争の問題。
ステップ2:ロピタルの定理の条件確認
分子と分母の導関数:
- 分子:$(\ln x)' = \dfrac{1}{x}$($x > 0$ で微分可能)
- 分母:$(x)' = 1 \neq 0$(条件を満たす)
ステップ3:ロピタルの定理を適用
$$\lim_{x \to \infty} \frac{\ln x}{x} = \lim_{x \to \infty} \frac{(\ln x)'}{(x)'} = \lim_{x \to \infty} \frac{1/x}{1} = \lim_{x \to \infty} \frac{1}{x}$$ステップ4:新しい極限を計算
$x \to \infty$ のとき、$\dfrac{1}{x} \to 0$ なので:
$$\lim_{x \to \infty} \frac{1}{x} = 0$$意味:対数関数 $\ln x$ は無限大に向かいますが、一次関数 $x$ のほうがはるかに速く無限大に向かいます。つまり「$x$ が $\ln x$ より圧倒的に強い」ということ。
ステップ1:不定形の確認と戦略
$x \to \infty$ のとき、分子 $e^x \to \infty$、分母 $x^n \to \infty$ なので $\dfrac{\infty}{\infty}$ 型。
直感的な問題:「指数関数と多項式、どちらが速く無限大に向かうのか?」
戦略:分子は何度微分しても $e^x$ のまま。分母は多項式なので、$n$ 回微分するとゼロに向かう定数になる。だから $n$ 回ロピタルを適用すれば決着がつく。
ステップ2:ロピタルを繰り返し適用
第1回の微分:
$$\lim_{x \to \infty} \frac{e^x}{x^n} = \lim_{x \to \infty} \frac{(e^x)'}{(x^n)'} = \lim_{x \to \infty} \frac{e^x}{nx^{n-1}}$$これもまだ $\dfrac{\infty}{\infty}$ 型なので、第2回の微分:
$$= \lim_{x \to \infty} \frac{e^x}{n(n-1)x^{n-2}}$$さらに続ける...(毎回分母の次数が1つ下がる)
ステップ3:$n$ 回微分後の形
$n$ 回ロピタルを適用すると、分母の多項式がすべて消えて定数 $n! = n(n-1)(n-2)\cdots 2 \cdot 1$ になります:
$$\lim_{x \to \infty} \frac{e^x}{x^n} = \lim_{x \to \infty} \frac{e^x}{n!}$$ステップ4:最終的な極限を計算
分子 $e^x \to \infty$、分母 $n!$ は定数なので:
$$\lim_{x \to \infty} \frac{e^x}{n!} = \infty$$結論:指数関数 $e^x$ は、どんなべき関数 $x^n$ よりも速く無限大に向かいます。これは数学や物理で非常に重要な性質です。
例: $1 < \ln x < x < x^2 < x^{100} < e^x < e^{2x}$
16.4 他の不定形への変換
16.4.1 $0 \cdot \infty$ 型
問題:$0$ と $\infty$ が掛け算されると、どうなるのか?
対策:$f \cdot g$ を分数の形 $\dfrac{f}{1/g}$ または $\dfrac{g}{1/f}$ に変換することで、$\dfrac{0}{0}$ 型または $\dfrac{\infty}{\infty}$ 型に帰着させます。その後、通常のロピタルを使えます。
ステップ1:不定形の確認
$x \to 0^+$ のとき:
- $x \to 0^+$(ゼロに向かう)
- $\ln x \to -\infty$(負の無限大に向かう)
ステップ2:不定形を分数の形に変換
$x \ln x$ を分数にするには、一方を分子に、もう一方の逆数を分母に置きます。ここは $\ln x$ を分子、$1/x$ を分母にします:
$$\lim_{x \to 0^+} x \ln x = \lim_{x \to 0^+} \frac{\ln x}{1/x}$$ステップ3:新しい極限の型の確認
$x \to 0^+$ のとき:
- 分子:$\ln x \to -\infty$
- 分母:$\dfrac{1}{x} \to +\infty$
ステップ4:ロピタルの定理を適用
分子と分母の導関数を計算:
- 分子:$(\ln x)' = \dfrac{1}{x}$
- 分母:$\left(\dfrac{1}{x}\right)' = -\dfrac{1}{x^2}$
ステップ5:分数を簡約
分子と分母に $x^2$ を掛けて整理:
$$\lim_{x \to 0^+} \frac{1/x}{-1/x^2} = \lim_{x \to 0^+} \frac{1}{x} \cdot \frac{x^2}{-1} = \lim_{x \to 0^+} \frac{x^2}{-x} = \lim_{x \to 0^+} (-x)$$ステップ6:最終的な極限を計算
$x \to 0^+$ のとき、$-x \to 0$ なので:
$$\lim_{x \to 0^+} (-x) = 0$$意味:$0$ が $\infty$ より「強い」ので、最後には $0$ に収束します。直感的には、$x$ が非常に小さいとき、$x \ln x$ は $\ln x$ の負の大きさよりも $x$ の小ささが勝つということです。
16.4.2 $\infty - \infty$ 型
通分や変形で $\dfrac{0}{0}$ 型などに帰着させる。
ステップ1:不定形の確認
$x \to 0^+$ のとき:
- $\dfrac{1}{\sin x} \to +\infty$(正の無限大)
- $\dfrac{1}{x} \to +\infty$(正の無限大)
ステップ2:通分して分数の形に統一
引き算を分数の形にするために、共通分母で通分します:
$$\lim_{x \to 0^+} \left(\frac{1}{\sin x} - \frac{1}{x}\right) = \lim_{x \to 0^+} \frac{x - \sin x}{x \sin x}$$ステップ3:新しい極限の型の確認
$x \to 0^+$ のとき:
- 分子:$x - \sin x \to 0 - 0 = 0$
- 分母:$x \sin x \to 0 \cdot 0 = 0$
ステップ4:ロピタルの定理を1回目適用
分子と分母の導関数を計算:
- 分子の導関数:$(x - \sin x)' = 1 - \cos x$
- 分母の導関数:$(x \sin x)' = \sin x + x \cos x$(積の微分)
ステップ5:新しい極限の型を確認
$x \to 0^+$ のとき:
- 分子:$1 - \cos x \to 1 - 1 = 0$
- 分母:$\sin x + x \cos x \to 0 + 0 \cdot 1 = 0$
ステップ6:ロピタルの定理を2回目適用
もう一度分子と分母を微分:
- 分子の導関数:$(1 - \cos x)' = \sin x$
- 分母の導関数:$(\sin x + x \cos x)' = \cos x + (\cos x - x\sin x) = 2\cos x - x\sin x$
ステップ7:最終的な極限を計算
$x \to 0^+$ のとき、分子と分母が両方とも確定値に向かいます:
- 分子:$\sin x \to 0$
- 分母:$2\cos x - x\sin x \to 2 \cdot 1 - 0 = 2$
意味:$x \approx 0$ の近くで、$\dfrac{1}{\sin x}$ と $\dfrac{1}{x}$ は非常に近い値ですが、わずかに $\dfrac{1}{\sin x}$ のほうが大きいため、引き算の結果は $0$ に収束します。
16.4.3 $0^0$, $1^\infty$, $\infty^0$ 型
共通の戦略:指数形式 $f^g$ を直接計算することはできないので、対数をとって $\ln(f^g) = g \ln f$ という積の形に変換します。
ステップ1:不定形の確認
$x \to 0^+$ のとき、$x^x$ は「底が $0$ に向かい、指数も $0$ に向かう」という $0^0$ 型。
直感的には「0の0乗って、何になるのか?」という問題。
ステップ2:対数をとって指数を下ろす
$y = x^x$ とおいて、両辺の自然対数をとります:
$$\ln y = \ln(x^x) = x \ln x$$ステップ3:$\ln y$ の極限を求める
今度は $x \ln x$ の極限を求めればよいです。これは例6で既に計算しました:
$$\lim_{x \to 0^+} \ln y = \lim_{x \to 0^+} x \ln x = 0$$ステップ4:元の $y$ の極限を求める
$\lim_{x \to 0^+} \ln y = 0$ ならば、元の $y$ の極限は:
$$\lim_{x \to 0^+} y = e^{\lim_{x \to 0^+} \ln y} = e^0 = 1$$結論:$\displaystyle\lim_{x \to 0^+} x^x = 1$。つまり、$0^0$ は極限の意味では $1$ に定義します。
ステップ1:不定形の確認
$x \to \infty$ のとき:
- 底:$1 + \dfrac{1}{x} \to 1 + 0 = 1$(1に向かう)
- 指数:$x \to \infty$(無限大に向かう)
ステップ2:対数をとって指数を下ろす
$y = \left(1 + \dfrac{1}{x}\right)^x$ とおいて、自然対数をとります:
$$\ln y = x \ln\left(1 + \frac{1}{x}\right)$$ステップ3:$\ln y$ の型を認識
$x \to \infty$ のとき:
- $x \to \infty$(無限大)
- $\ln\left(1 + \dfrac{1}{x}\right) \to \ln 1 = 0$(ゼロ)
ステップ4:置換して $\dfrac{0}{0}$ 型に変換
$t = \dfrac{1}{x}$ と置くと、$x \to \infty$ のとき $t \to 0^+$ です。
また、$x = \dfrac{1}{t}$ なので:
$$\lim_{x \to \infty} x \ln\left(1 + \frac{1}{x}\right) = \lim_{t \to 0^+} \frac{1}{t} \ln(1+t) = \lim_{t \to 0^+} \frac{\ln(1+t)}{t}$$これで $\dfrac{0}{0}$ 型に帰着しました。
ステップ5:ロピタルの定理を適用
分子と分母の導関数を計算:
- 分子:$(\ln(1+t))' = \dfrac{1}{1+t}$
- 分母:$(t)' = 1$
ステップ6:最終的な極限を計算
$t \to 0^+$ のとき:
$$\lim_{t \to 0^+} \frac{1}{1+t} = \frac{1}{1+0} = 1$$ステップ7:元の $y$ の極限を求める
$\lim_{x \to \infty} \ln y = 1$ ならば:
$$\lim_{x \to \infty} y = e^1 = e$$結論:$\displaystyle\lim_{x \to \infty} \left(1 + \frac{1}{x}\right)^x = e$。これは自然対数の底 $e \approx 2.71828...$ の定義です!
ステップ4:指数をとって答えを得る
$$\lim_{x \to \infty} y = e^1 = e$$16.5 注意点
- 不定形でないときは使えない
- $\displaystyle\lim \frac{f'}{g'}$ が存在しない場合もある(定理の条件を満たさない)
- 単純な計算で解ける場合は、ロピタルを使わない方が速いこともある
- 繰り返し適用できるが、複雑になりすぎないように注意
16.5.1 ロピタルの定理が使えない例
❌ ロピタルが使えない理由
$x \to 0$ で見かけ上 $\dfrac{0}{0}$ 型に見えるが…
分子を微分すると:
$$(x^2 \sin(1/x))' = 2x \sin(1/x) - \cos(1/x)$$分母の微分:$(x)' = 1$
$x \to 0$ のとき、$2x\sin(1/x) \to 0$ ですが、$\cos(1/x)$ は $-1$ と $1$ の間を永遠に振動し続けるため、$\displaystyle\lim \frac{f'(x)}{g'(x)}$ は存在しません。
⟹ ロピタルの定理の適用条件を満たしていないので使えない!
✓ 正しい解法:別の方法を使う
挟み撃ちの原理を使う。$\left|\sin(1/x)\right| \leq 1$ より:
$$\left|\frac{x^2 \sin(1/x)}{x}\right| = |x \sin(1/x)| \leq |x| \to 0 \quad (x \to 0)$$したがって $\displaystyle\lim_{x \to 0} \frac{x^2 \sin(1/x)}{x} = 0$
ロピタルの定理は「$\displaystyle\lim \frac{f'}{g'}$ が存在するとき」という条件付き。
$\displaystyle\lim \frac{f'}{g'}$ が存在しなくても、元の極限 $\displaystyle\lim \frac{f}{g}$ が存在することはある。
16.6 練習問題
次の極限をロピタルの定理を使って求めよ。
- $\displaystyle\lim_{x \to 0} \frac{e^x - 1 - x}{x^2}$
- $\displaystyle\lim_{x \to 0} \frac{\tan x - x}{x^3}$
- $\displaystyle\lim_{x \to \infty} \frac{x^3}{e^x}$
$\displaystyle\lim_{x \to 0^+} x^{\sin x}$ を求めよ。
解答を見る
練習1の解答
- 方針:$\dfrac{0}{0}$ 型。1回適用後もまだ $\dfrac{0}{0}$ なので、もう1回。
$\displaystyle\lim \frac{e^x - 1}{2x}$(まだ $\dfrac{0}{0}$)→ $\displaystyle\lim \frac{e^x}{2} = \frac{1}{2}$ - 方針:$\dfrac{0}{0}$ 型。1回適用後、$\tan^2 x / x^2 \to 1$ を利用。
$\displaystyle\lim \frac{\sec^2 x - 1}{3x^2} = \displaystyle\lim \frac{\tan^2 x}{3x^2} = \dfrac{1}{3}\displaystyle\lim \frac{\tan^2 x}{x^2} = \dfrac{1}{3}$ - 方針:$\dfrac{\infty}{\infty}$ 型。分子の次数が 0 になるまで繰り返す(3回)。
$\displaystyle\lim \frac{3x^2}{e^x} \to \displaystyle\lim \frac{6x}{e^x} \to \displaystyle\lim \frac{6}{e^x} = 0$
練習2の解答
方針:$1^\infty$ 型($x \to 0^+$ で $x \to 1$, $\sin x \to 0$)。対数を取って $0 \cdot (-\infty)$ 型に変換し、さらに $\dfrac{\infty}{\infty}$ 型へ。
$y = x^{\sin x}$ とおくと $\ln y = \sin x \cdot \ln x$
$\displaystyle\lim_{x \to 0^+} \sin x \cdot \ln x = \displaystyle\lim \frac{\ln x}{\csc x}$($\dfrac{-\infty}{\infty}$ 型)
ロピタル:$\displaystyle\lim \frac{1/x}{-\csc x \cot x} = \displaystyle\lim \frac{-\sin x \tan x}{x} = \displaystyle\lim \frac{-\sin x}{x} \cdot \tan x = (-1) \cdot 0 = 0$
$\displaystyle\lim \ln y = 0$ より $\displaystyle\lim y = e^0 = 1$