波の重ね合わせ

正弦波の合成による複雑な波形の生成

入門(高校数学レベル)

はじめに

単純な正弦波を複数足し合わせると、より複雑な波形を作ることができる。この「重ね合わせの原理」は、音楽における和音から、電気回路の解析まで、幅広い応用を持つ。

重ね合わせの原理

2つの波 $f_1(x)$ と $f_2(x)$ があるとき、これらを足し合わせた

$$f(x) = f_1(x) + f_2(x)$$

も波である。これを重ね合わせの原理という。

同じ周波数の波の合成

同じ角周波数 $\omega$ を持つ2つの正弦波:

$$f_1(x) = A_1\sin(\omega x + \phi_1), \quad f_2(x) = A_2\sin(\omega x + \phi_2)$$

を合成すると、結果も同じ角周波数の正弦波になる:

$$f_1(x) + f_2(x) = A\sin(\omega x + \phi)$$

ただし、$A$ と $\phi$ は元の振幅と位相から計算される。

うなり

周波数がわずかに異なる2つの波を重ねるとうなり(beat)が生じる:

$$\sin(\omega_1 x) + \sin(\omega_2 x) = 2\cos\left(\dfrac{\omega_1 - \omega_2}{2}x\right)\sin\left(\dfrac{\omega_1 + \omega_2}{2}x\right)$$

波1 低い音 波2 少し高い音 波1+波2 =うなり x 破線=包絡線(うなりの周期)
図 1: うなり:周波数の近い2つの波(波1・波2)を重ねると、位相が合う所では強め合い、逆位相の所では打ち消し合うため、和の振幅がゆっくり変化する(破線=包絡線)

$\omega_1 \approx \omega_2$ のとき、右辺は:

  • 高い周波数 $\dfrac{\omega_1 + \omega_2}{2}$ で振動する波
  • 低い周波数 $\dfrac{\omega_1 - \omega_2}{2}$ で振幅が変化

という形になる。楽器のチューニングでうなりを聴いて音程を合わせるのは、この現象を利用している。

例:440 Hz と 441 Hz の音を同時に鳴らすと、毎秒 $|441-440|=1$ 回の割合でうなり(音の大小)が聞こえる。一般に、うなりの回数は2音の周波数の差にほぼ等しい。

倍音と音色

バイオリンやフルートのように音程のはっきりした楽器の音は、基本周波数(基音)とその整数倍の周波数(倍音)の重ね合わせでよく近似できる。

基本角周波数を $\omega$ とすると:

$$f(x) = A_1\sin(\omega x) + A_2\sin(2\omega x) + A_3\sin(3\omega x) + \cdots$$

  • $\sin(\omega x)$:基音(第1倍音)
  • $\sin(2\omega x)$:第2倍音(1オクターブ上)
  • $\sin(3\omega x)$:第3倍音

各倍音の振幅 $A_n$ の比率が、楽器ごとの音色を決める。同じ高さの「ラ」でも、フルートとバイオリンで音色が違うのは、倍音構成(各倍音の振幅の比)が異なるためである。

なお厳密には、各倍音は振幅だけでなく位相($\sin$ を基準としたずれ)ももつ。耳は位相の違いに比較的鈍感(オームの音響法則)で、音色は主に倍音の振幅比で決まるが、低い周波数では聴神経が波形の時間的な微細構造に同期する(位相同期)ため、位相の違いも知覚できることが知られている。

フーリエ解析との関係

「任意の周期関数を正弦波の和で表す」というフーリエ級数の考え方は、まさにこの倍音の概念を数学的に一般化したものである。

整数倍は理想化である:これはあくまで近似である。シンバルやベル、太鼓のような板・膜の振動は倍音が整数倍にならず(非整数の倍音をもつ)、ピアノでさえ弦の剛性のために高次の倍音はわずかに高くずれる(インハーモニシティ)。厳密に整数倍の倍音をもつ音だけが完全に周期的になり、そうでない音はフーリエ級数ではなく、より一般的な周波数分析(フーリエ変換)で扱う。

波形の合成

例:矩形波の近似

周期 $2\pi$ の矩形波(値が $+1$ と $-1$ を交互にとる波)は、奇数次の正弦波の和で近似できる:

$$f(x) \approx \dfrac{4}{\pi}\left(\sin x + \dfrac{1}{3}\sin 3x + \dfrac{1}{5}\sin 5x + \cdots\right)$$

  • $\sin x$ だけ:なめらかな正弦波
  • $\sin x + \dfrac{1}{3}\sin 3x$:少し角ばった形
  • 項を増やすほど:矩形波に近づく
x +1 −1 π N=1 N=3 N=9 理想
図 2: 正弦波を重ね合わせて矩形波に近づく様子(項数 N を増やすと矩形波に近づく)

このように、十分な数の正弦波を重ねれば、どんな周期関数も近似できる。これがフーリエ級数の核心的アイデアである。

まとめ

  • 波は足し合わせることができる(重ね合わせの原理)
  • 周波数の近い波を重ねるとうなりが生じる
  • 楽器の音色は倍音構成で決まる
  • 複雑な周期波形も正弦波の重ね合わせで作れる

参考文献

よくある質問

Q1: 波の重ね合わせ(重ね合わせの原理)とは何ですか?

A: 線形系では複数の波を同時に加えると、各波が独立に存在するときの和になるという原理です。数学的には「線形性」から来ており、$f_1(x) + f_2(x)$ の波は $f_1$ と $f_2$ それぞれが存在するときの合計と同じです。音の和音、光の干渉などで成り立ちます。

Q2: うなり(beat)はどのようにして生じますか?

A: 周波数が近い2つの音波 $\sin(2\pi f_1 t) + \sin(2\pi f_2 t)$ を重ね合わせると、積和公式より $2\cos(2\pi \frac{f_1-f_2}{2} t) \sin(2\pi \frac{f_1+f_2}{2} t)$ となります。$|f_1 - f_2|$ Hz の周期で振幅が変化するうなりが生じます。

Q3: フーリエ解析と波の重ね合わせはどう関係しますか?

A: フーリエ解析は任意の周期関数を正弦波・余弦波の重ね合わせ(フーリエ級数)で表す理論です。逆に正弦波の和(フーリエ級数)がどのような波形を作るかを理解することで、音声・電気信号の周波数成分の分析・合成が可能になります。