フーリエ解析 入門
三角関数と波の重ね合わせ(高校数学レベル)
入門の概要
入門では、フーリエ解析の基礎となる三角関数の性質を復習し、周期関数を正弦波の重ね合わせとして表現するというアイデアを直感的に理解することを目的としている。
学習目標
- 三角関数の基本的な性質を理解する
- 周期関数の概念を理解する
- 波の重ね合わせの原理を理解する
- フーリエ級数の基本的な考え方を理解する
- 簡単な関数のフーリエ展開ができるようになる
前提知識
- 三角比(sin, cos の性質)
- 微分と積分の計算
このページのハイライト
- 何をしたいのか? — フーリエ級数の目的
- フーリエ級数の基本形 — 数式と定義
- なぜ重要なのか — 応用分野
序章:フーリエ級数とは
このページでは、本編の各章を学ぶ前に、フーリエ級数がどのようなものかを直感的に理解する。
① 何をしたいのか?
フーリエ級数の目的は、複雑な関数を単純な $\sin$ 波と $\cos$ 波の足し算で表すことである。
「ドミソ」の和音を「ド」「レ」「ミ」が合わさったものと考えるのと同じである。
② 周期波形を $\sin,\cos$ の和として表す
複雑な波形 $f(x)$ が周期 $2\pi$ をもつと仮定する。
$$f(x + 2\pi) = f(x)$$
周期 $2\pi$ をもつといえば、高校で習った $\sin,\cos$ が頭に浮かぶだろう。
驚くべきことに (若干の例外を除き) どんな複雑な波形でも、次のように $\sin,\cos$ の和として表すことができる。
$$f(x) = \frac{a_0}{2} + \sum_{n=1}^{\infty}\left\{ a_n \cos(nx) + b_n \sin(nx) \right\}$$
これを $f(x)$ のフーリエ級数展開 といい、$a_n$, $b_n$ は以下の定積分で計算できる。
$$\begin{align*} a_0 &= \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(x)\,dx \\ a_n &= \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(x) \cos(nx)\,dx \\ b_n &= \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} f(x) \sin(nx)\,dx \end{align*}$$
③ なぜ重要なのか
大学進学後: 物理学、電気工学、機械工学、情報工学など、ほぼすべての理工系学部で学ぶ重要な科目である。 ここで学ぶフーリエ級数は、より一般的な数学解析や応用分野への重要な基礎となる。
④ やってみよう:$f(x)=x$ のフーリエ級数展開
関数 $f(x)=x$ をフーリエ級数展開してみよう。
奇関数を区間 $[-\pi, \pi]$ で積分すると 0 になるから
$$a_0 = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} x\,dx = 0$$
これは簡単。
奇関数 $x$ と偶関数 $\cos(nx)$ の積 $x \cos(nx)$ も奇関数だから 0 になる。
$$a_n = \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} x \cos(nx)\,dx = 0$$
これも簡単。
しかし奇関数 $x$ と奇関数 $\sin(nx)$ の積 $x \sin(nx)$ は偶関数なので 0 にならない。
$$b_n\ =\ \frac{1}{\pi} \int_{-\pi}^{\pi} x \sin(nx)\,dx\ =\ ?$$
高校で習った部分積分の公式
$$\int_a^b u(x)v'(x)\,dx = \left[ u(x)v(x) \right]_a^b - \int_a^b u'(x)v(x)\,dx$$
を使えば、
$$\begin{align*} u(x) &= x, & v'(x) &= \sin(nx) \\ u'(x) &= 1, & v(x) &= -\frac{1}{n}\cos(nx) \end{align*}$$
とすることで、次のように計算できる。
\begin{equation} b_n = \frac{1}{\pi} \left[ -\frac{x}{n}\cos(nx) \right]_{-\pi}^{\pi} + \frac{1}{\pi n} \int_{-\pi}^{\pi} \cos(nx)\,dx \label{eq:bn_partial} \end{equation}
ここで、式 $\eqref{eq:bn_partial}$ の第1項は
$$\begin{align*} -\frac{1}{\cancel{\pi} n} \left[ \cancel{\pi} \cos(n\pi) - (-\cancel{\pi}) \cos(-n\pi) \right] &= -\frac{1}{n} \left[ \cos(n\pi) + \cos(-n\pi) \right] \\ &\quad \cos(-n\pi) = \cos(n\pi) \text{ だから} \\ &= -\frac{2\cos(n\pi)}{n} \\ &\quad \cos(n\pi) = (-1)^n \text{ より} \\ &= \frac{2}{n}(-1)^{n+1} \end{align*}$$
また、式 $\eqref{eq:bn_partial}$ の第2項は $\cos$ の 1 周期にわたる定積分だから
$$ \frac{1}{\pi n} \int_{-\pi}^{\pi} \cos(nx)\,dx = 0 $$よって $b_n$ は
$$b_n = \frac{2}{n}(-1)^{n+1}$$
$a_0=a_n=0$ だったから $f(x) = x$ は $\sin(nx)$ だけで、次のようにフーリエ級数展開できる。
$$ f(x) = 2\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-1)^{n+1}}{n} \sin(nx)$$
⑤ 部分和と収束
最初の $N$ 項までの和を第 $N$ 部分和(partial sum)という。$N=1,10,100$ の部分和を以下に示す。
$$ f_N(x) = 2\sum_{n=1}^{N} \frac{(-1)^{n+1}}{n} \sin(nx)$$
グラフを見て気づくことがいくつかある。
- $N$ を増やすにつれて元の関数 $f(x)=x$ に近づいていく。
- $\sin$ の足し合わせなので、どうしても $f(\pm\pi)=0$ になってしまう。
- $N=100$ のグラフに顕著だが、$f(\pm\pi)$ でツンと上下に角ができる。
特に 1898年に発見された 3 は「ギブズの現象」と呼ばれ、その発見をきっかけに後の数学に大きな進展をもたらしたのだが、その話はまた後のお楽しみ。
⑥ まとめ
- フーリエ級数は周期関数を三角関数の和で表す
- 係数は定積分で機械的に求められる
- 物理・工学・情報分野の基礎技術