第5章 証明を読んでみよう

入門(高校〜大学1年レベル)

5.1 証明の基本構造

証明は基本的に以下の構造を持っています:

定理:P ならば Q 証明 1. P を仮定する(仮定を置く) 2. 論理的な推論を積み重ねる 3. Q を導く(結論を得る) □ または Q.E.D.
図5.1: 証明の基本構造

証明の終わりの記号

  • (白い四角):証明終わりの記号
  • (黒い四角):同上
  • Q.E.D.:ラテン語「Quod Erat Demonstrandum」の略(証明すべきことが証明された)

5.2 例題1:偶数の和

定理

2つの偶数の和は偶数である。

証明を読む前に

まず、命題を整理しましょう:

  • 仮定:$a$ と $b$ が偶数
  • 結論:$a + b$ が偶数

証明

$a$ と $b$ を偶数とする。

Step 1:偶数の定義より、ある整数 $m, n$ が存在して

$$a = 2m, \quad b = 2n$$

と書ける。

Step 2:$a + b$ を計算すると

\begin{align} a + b &= 2m + 2n \\ &= 2(m + n) \end{align}

Step 3:$m + n$ は整数なので、$k = m + n$ と置くと

$$a + b = 2k$$

となる。これは $a + b$ が偶数であることを意味する。$\square$

証明の解説

Step 1: 仮定を使う a=2m, b=2n Step 2: 計算 a+b = 2(m+n) Step 3 結論 偶数の定義を 式で書く 2でくくる (因数分解) 偶数の 定義に合致
図5.2: 証明の流れ

5.3 例題2:奇数の積

定理

2つの奇数の積は奇数である。

命題の整理

  • 仮定:$a$ と $b$ が奇数
  • 結論:$a \times b$ が奇数

奇数の定義

整数 $n$ が奇数であるとは、ある整数 $k$ が存在して $n = 2k + 1$ と書けることである。

証明

$a$ と $b$ を奇数とする。

Step 1:奇数の定義より、ある整数 $m, n$ が存在して

$$a = 2m + 1, \quad b = 2n + 1$$

と書ける。

Step 2:$a \times b$ を計算する。

\begin{align} a \times b &= (2m + 1)(2n + 1) \\ &= 4mn + 2m + 2n + 1 \quad \text{(展開)}\\ &= 2(2mn + m + n) + 1 \quad \text{(2でくくる)} \end{align}

Step 3:$2mn + m + n$ は整数なので、$k = 2mn + m + n$ と置くと

$$a \times b = 2k + 1$$

となる。これは $a \times b$ が奇数であることを意味する。$\square$

各ステップで何をしているか

ステップ 行っていること
Step 1 仮定を定義に従って式で表す
Step 2 式を変形して目標の形に近づける
Step 3 結論が定義に合致することを確認

5.4 例題3:不等式

定理

$a > 0$ かつ $b > 0$ ならば、$a + b > 0$ である。

証明

$a > 0$ かつ $b > 0$ と仮定する。

Step 1:$a > 0$ の両辺に $b$ を加えると(不等式は両辺に同じ数を加えても向きが変わらない)

$$a + b > 0 + b = b$$

Step 2:$b > 0$ より

$$a + b > b > 0$$

Step 3:したがって

$$a + b > 0$$

が成り立つ。$\square$

不等式の推移律

この証明では推移律を使いました:

$$x > y \text{ かつ } y > z \Rightarrow x > z$$
0 b a+b < < 0 < b < a+b なので a+b > 0
図5.3: 不等式の推移律の視覚化

5.5 証明を読むコツ

コツ1:まず全体像を把握する

  • 何を仮定しているか?
  • 何を示そうとしているか?
  • どんな方針で証明しているか?

コツ2:各ステップの根拠を確認する

  • 「なぜこの式変形ができるのか?」
  • 「どの定義・定理を使っているか?」

コツ3:具体例で確認する

  • 抽象的な証明を、具体的な数で追ってみる
  • 例:$a = 4, b = 6$ で偶数の和の証明を追う

具体例で確認:偶数の和

$a = 4 = 2 \times 2$、$b = 6 = 2 \times 3$ とすると

$a + b = 4 + 6 = 10 = 2 \times 5$

確かに $m = 2, n = 3, k = m + n = 5$ で証明の通り!

コツ4:わからない箇所に印をつける

すべてを一度で理解しようとせず、わからない箇所を明確にして後で調べましょう。

5.6 この章のまとめ

ポイント 内容
証明の構造 仮定 → 推論 → 結論
定義の使い方 定義を式で表して計算に使う
読むコツ 全体像把握、根拠確認、具体例

次章の予告

次章では入門編の練習問題に取り組む。ここまでの内容を確認しよう。

よくある質問

Q1: 数学の証明を読む際の基本的な心構えは何ですか?

A: 証明を読む際は「各ステップがなぜ成立するか」を確認しながら進みます。「明らか」「容易に示せる」と書かれた部分も自分で確認し、仮定と結論を常に意識することが重要です。

Q2: 直接証明と間接証明(背理法・対偶法)の使い分けは?

A: 直接証明は仮定から結論を導く基本的な方法です。背理法は「結論が偽と仮定して矛盾を導く」方法で「存在しない」「無限個ある」を示すのに向いています。対偶法は $P \Rightarrow Q$ の代わりに $\neg Q \Rightarrow \neg P$ を示す方法です。

Q3: 「必要十分条件の証明」のパターンは?

A: $P \Leftrightarrow Q$ を示すには $P \Rightarrow Q$(十分性)と $Q \Rightarrow P$(必要性)を別々に証明します。「(⇒) $P$ を仮定すると...(中略)$Q$ を得る。(⇐) $Q$ を仮定すると...」という形が標準的です。