第5章 条件付き確率

5.1 情報が増えると何が変わるか

確率は「何を知っているか」によって変わる。

例:サイコロ

サイコロは振られたが、まだどの目が出たのか見ていない。

Q:6が出た確率は?

答え:$\dfrac{1}{6}$

ここで誰かが「偶数!」と言うのが聞こえた。

Q:6が出た確率は?

サイコロで偶数の目は $\{2, 4, 6\}$ の3つ。6はそのうちの1つ。

答え:$\dfrac{1}{3}$

情報が増えたことで確率が変わった!

偶数と知る前 全部:1, 2, 3, 4, 5, 6 確率 = 1/6 偶数と わかった 偶数と知った後 偶数のみ:2, 4, 6 確率 = 1/3 確率が変わった! 1/6 → 1/3(2倍に!)
図5.1: 情報が増えると確率が変わる

注意:この例では確率が上がったが、情報によっては確率が下がることもあるし、変わらないこともある。例えば「奇数が出た」という情報を得たら、6が出る確率は $\dfrac{1}{6}$ から $0$ に下がる。

5.2 条件付き確率の定義

「Bが起こったという条件の下で、Aが起こる確率」を条件付き確率と呼び、$P(A|B)$ と書く。

$$P(A|B) = \dfrac{P(A \cap B)}{P(B)} \quad (P(B) > 0)$$

覚え方のコツ

Bが起こったとわかった後だから、
 分母はBの確率(新しい全体)、
 分子はBの中でAも起こる確率

具体例:サイコロでのベン図

先ほどの例を改めてベン図で表現すると、次のようになる(図5.2)。B が起きたと知った後は、図5.2の緑の円(B)の部分だけを考えればよい。その中で A も起こる確率が条件付き確率である。

S(全事象) B: 偶数 A: 6 6 2 4 1 3 5 P(A|B) の計算 B = {2, 4, 6} A∩B = {6} P(A|B) = P(A∩B) / P(B) = (1/6) / (3/6) = 1/3
図5.2: サイコロの例での条件付き確率のベン図

図の読み方

  • 青い円(A):6が出る = {6}
  • 緑の円(B):偶数の目 = {2, 4, 6}
  • 重なり部分(A∩B):6が出る(6は偶数) = {6}
  • P(A|B) = 1/3:偶数(B)の中で、6(A)である確率

重要:「Bが起こった」という条件のもとでは、緑の円(B)が新しい全体となる。その中でAも起こる(重なり部分の)確率を求めればよい。

数式で確認

  • $A$:6が出る → $P(A) = \dfrac{1}{6}$
  • $B$:偶数が出る → $P(B) = \dfrac{3}{6} = \dfrac{1}{2}$
  • $A \cap B$:6が出る(6は偶数なので) → $P(A \cap B) = \dfrac{1}{6}$
$$P(A|B) = \dfrac{P(A \cap B)}{P(B)} = \dfrac{1/6}{1/2} = \dfrac{1}{3}$$

「偶数」という情報を得たことで、6が出る確率が $\dfrac{1}{6}$ から $\dfrac{1}{3}$ に上がった!

一般的な場合のベン図

S(全体) A B A∩B P(A|B) = P(A ∩ B) P(B) Bを新しい全体と して考える
図5.3: 条件付き確率 ― Bを新しい全体として考える

5.3 条件付き確率の計算例

例1:2つのサイコロ

2つのサイコロを振った。和が8以上だとわかった。このとき、和がちょうど10である確率は?

解答

  • $B$:和が8以上
  • $A$:和が10

まず、各事象に含まれる組み合わせを数える。

和が8以上の組み合わせ

  • 和8:$(2,6),(3,5),(4,4),(5,3),(6,2)$ → 5通り
  • 和9:$(3,6),(4,5),(5,4),(6,3)$ → 4通り
  • 和10:$(4,6),(5,5),(6,4)$ → 3通り
  • 和11:$(5,6),(6,5)$ → 2通り
  • 和12:$(6,6)$ → 1通り

合計:$5+4+3+2+1 = 15$ 通り

和が10の組み合わせ:3通り

$$P(A|B) = \dfrac{\color{green}{3}}{\color{blue}{15}} = \color{orange}{\dfrac{1}{5}}$$
S (全36通り) B: 和8以上 (3+12=15通り) A: 和10 (3通り) A∩B = 3通り 和8,9,11,12 (12通り) 和8未満 (21通り)
図5.4: 2つのサイコロの例のベン図

例2:トランプ

トランプから1枚引いた。それが絵札だとわかった。このとき、それがハートである確率は?

解答

  • $B$:絵札 → 12枚
  • $A$:ハート → 13枚
  • $A \cap B$:ハートの絵札 → 3枚
$$P(A|B) = \dfrac{3}{12} = \dfrac{1}{4}$$
S (全52枚) B: 絵札 (12枚) A: ハート (13枚) A∩B: ハート絵札 (3枚) 🂻 🂽 🂾 他の絵札 (9枚) 🂫 🃍 🃞 ...他6枚 ハート数札 (10枚) 🂱 🂲 🂳 ...他7枚 他の数札 (30枚) 🂢 🃃 🃔 ...他27枚 P(A|B) = 3 12 = 1/4
図5.5: トランプの例のベン図

5.4 確率の乗法定理

条件付き確率の定義式を変形すると:

定理:乗法定理(積の法則)

$P(B) > 0$ のとき、

$$P(A \cap B) = P(B) \times P(A|B)$$

同様に、$P(A) > 0$ のとき、

$$P(A \cap B) = P(A) \times P(B|A)$$
証明

条件付き確率の定義より、

$$P(A|B) = \dfrac{P(A \cap B)}{P(B)}$$

両辺に $P(B)$ を掛けると、

$$P(B) \times P(A|B) = P(A \cap B)$$

2つ目の式も同様に、$P(B|A) = \dfrac{P(A \cap B)}{P(A)}$ から導かれる。

「AとBが同時に起こる確率」は「Bが起こる確率」×「Bが起こったときにAが起こる確率」

例:くじ引き

10本中3本当たりのくじがある。2本続けて引くとき、2本とも当たる確率は?

1本目当たり 3/10 × 2本目も当たり 2/9 = 両方当たり 1/15 残り9本中、当たりは2本
図5.6: 乗法定理の適用

解答

  • 1本目が当たる確率:$\dfrac{3}{10}$
  • 1本目が当たったとき、2本目も当たる確率:$\dfrac{2}{9}$
$$P(\text{2本とも当たり}) = \dfrac{3}{10} \times \dfrac{2}{9} = \dfrac{6}{90} = \dfrac{1}{15}$$

5.5 全確率の公式

標本空間を互いに排反な事象 $B_1, B_2, \ldots, B_n$ に分割できるとき:

定理:全確率の公式

$B_1, B_2, \ldots, B_n$ が標本空間 $S$ の分割(互いに排反で和が $S$)で、各 $P(B_i) > 0$ のとき、

$$P(A) = \sum_{i=1}^{n} P(B_i)P(A|B_i) = P(B_1)P(A|B_1) + P(B_2)P(A|B_2) + \cdots + P(B_n)P(A|B_n)$$
証明

$B_1, B_2, \ldots, B_n$ は $S$ の分割なので、

$$S = B_1 \cup B_2 \cup \cdots \cup B_n, \quad B_i \cap B_j = \emptyset \; (i \neq j)$$

事象 $A$ を各 $B_i$ との共通部分に分解すると、

$$A = A \cap S = A \cap (B_1 \cup B_2 \cup \cdots \cup B_n) = (A \cap B_1) \cup (A \cap B_2) \cup \cdots \cup (A \cap B_n)$$

$B_i$ たちが互いに排反なので、$A \cap B_i$ たちも互いに排反である。

加法性より、

$$P(A) = P(A \cap B_1) + P(A \cap B_2) + \cdots + P(A \cap B_n)$$

乗法定理 $P(A \cap B_i) = P(B_i)P(A|B_i)$ を各項に適用すると、

$$P(A) = P(B_1)P(A|B_1) + P(B_2)P(A|B_2) + \cdots + P(B_n)P(A|B_n)$$
S = B₁ ∪ B₂ ∪ B₃ B₁ B₂ B₃ A A∩B₁ A∩B₂ A∩B₃
図5.7: 全確率の公式 ― 事象Aを分割 B₁, B₂, B₃ で分解

例:2つの袋

袋1には赤玉3個、白玉2個。袋2には赤玉4個、白玉6個。

コインを投げて表なら袋1、裏なら袋2から1個取り出す。

赤玉を取り出す確率は?

コイン 表 1/2 裏 1/2 袋1 袋2 赤 3/5 赤 2/5 P(赤) = 1/2 × 3/5 + 1/2 × 2/5 = 3/10 + 2/10 = 1/2
図5.8: 全確率の公式の適用例(2つの袋)

解答

  • $B_1$:袋1を選ぶ → $P(B_1) = \dfrac{1}{2}$
  • $B_2$:袋2を選ぶ → $P(B_2) = \dfrac{1}{2}$
  • $P(\text{赤}|B_1) = \dfrac{3}{5}$
  • $P(\text{赤}|B_2) = \dfrac{4}{10} = \dfrac{2}{5}$
$$P(\text{赤}) = \dfrac{1}{2} \times \dfrac{3}{5} + \dfrac{1}{2} \times \dfrac{2}{5} = \dfrac{3}{10} + \dfrac{2}{10} = \dfrac{1}{2}$$

5.6 ベイズの定理

事象Aが起こったとき、それが $B_i$ が原因である確率を求める公式である。

定理:ベイズの定理

$B_1, B_2, \ldots, B_n$ が標本空間 $S$ の分割で、$P(A) > 0$ かつ各 $P(B_i) > 0$ のとき、

$$P(B_i|A) = \dfrac{P(B_i)P(A|B_i)}{P(A)} = \dfrac{P(B_i)P(A|B_i)}{\sum_{j=1}^{n} P(B_j)P(A|B_j)}$$
証明

条件付き確率の定義より、

$$P(B_i|A) = \dfrac{P(A \cap B_i)}{P(A)}$$

乗法定理より、$P(A \cap B_i) = P(B_i)P(A|B_i)$ なので、

$$P(B_i|A) = \dfrac{P(B_i)P(A|B_i)}{P(A)}$$

分母の $P(A)$ に全確率の公式を適用すると、

$$P(B_i|A) = \dfrac{P(B_i)P(A|B_i)}{\sum_{j=1}^{n} P(B_j)P(A|B_j)}$$
ベイズの定理の意味
  • $P(B_i)$事前確率(情報を得る前の $B_i$ の確率)
  • $P(B_i|A)$事後確率($A$ を観測した後の $B_i$ の確率)
  • $P(A|B_i)$尤度($B_i$ のもとで $A$ が起こる確率)

ベイズの定理は「結果 $A$ を観測して、原因 $B_i$ の確率を更新する」公式である。

ベイズの定理のイメージ

「結果を見て、原因の確率をアップデートする」

:陽性反応が出た → 本当に病気の確率は?

  • 事前確率:病気の人の割合(検査前)
  • 事後確率:検査結果を考慮した確率(検査後)

例:製品の不良品

工場Aと工場Bが製品を作っている。

  • 工場Aは全体の60%を生産し、不良率は2%
  • 工場Bは全体の40%を生産し、不良率は5%

ある製品が不良品だった。それが工場Aで作られた確率は?

事前確率 工場A 60% 不良率2% 工場B 40% 不良率5% 不良品 0.6×0.02=0.012 0.4×0.05=0.020 事後確率 P(A|不良) = 0.012/(0.012+0.020) = 0.012/0.032 = 3/8 = 37.5%
図5.9: ベイズの定理 ― 原因の確率を逆算

解答

  • $P(A) = 0.6$(工場Aで作られた確率)
  • $P(B) = 0.4$(工場Bで作られた確率)
  • $P(\text{不良}|A) = 0.02$
  • $P(\text{不良}|B) = 0.05$

まず、不良品である確率を求める(全確率の公式):

$$P(\text{不良}) = 0.6 \times 0.02 + 0.4 \times 0.05 = 0.012 + 0.02 = 0.032$$

ベイズの定理より:

$$P(A|\text{不良}) = \dfrac{0.6 \times 0.02}{0.032} = \dfrac{0.012}{0.032} = \dfrac{12}{32} = \dfrac{3}{8} = 0.375$$

工場Aで作られた確率は37.5%。

例:DNA鑑定と冤罪 ― 「このことさえ知っていれば…」

実際にあった誤解

過去の裁判で「DNA鑑定で99.9%一致した!だから犯人だ!」という主張がなされたことがある。しかし、ベイズの定理を正しく適用すると、実際に犯人である確率は意外と低い場合がある。この知識があれば、冤罪を防げたかもしれない。

ある事件が起きた。容疑者のDNAを鑑定したところ、現場の証拠品と一致した。DNA鑑定の精度は次の通り:

  • 犯人のDNAである場合、一致する確率:99.9%(感度)
  • 無関係の人のDNAでも、偶然一致する確率:0.1%(偽陽性率)

この地域には100万人の住民がいて、犯人は1人である。DNA鑑定で一致した人が、本当に犯人である確率は?

多くの人の直感的な答え:「99.9%一致したのだから、99.9%の確率で犯人だ!」

しかし、実際は…

ベイズの定理による正しい計算

  • $B_1$:この人が犯人である → $P(B_1) = \dfrac{1}{1{,}000{,}000}$(事前確率)
  • $B_2$:この人は無関係 → $P(B_2) = \dfrac{999{,}999}{1{,}000{,}000}$
  • $A$:DNA鑑定で一致した
  • $P(A|B_1) = 0.999$(犯人なら一致)
  • $P(A|B_2) = 0.001$(無関係でも偶然一致)

ベイズの定理より、DNA一致という結果を得たとき、この人が本当に犯人である確率は:

$$P(B_1|A) = \dfrac{P(B_1) \cdot P(A|B_1)}{P(B_1) \cdot P(A|B_1) + P(B_2) \cdot P(A|B_2)}$$

数値を代入すると:

$$P(B_1|A) = \dfrac{\dfrac{1}{1{,}000{,}000} \times 0.999}{\dfrac{1}{1{,}000{,}000} \times 0.999 + \dfrac{999{,}999}{1{,}000{,}000} \times 0.001}$$

分子と分母に $1{,}000{,}000$ を掛けて整理すると:

$$= \dfrac{0.999}{0.999 + 999.999} = \dfrac{0.999}{1000.998} \approx 0.00099800399 \approx 0.001 = 0.1\%$$

答え:約0.1%(約1000分の1)

なぜ「DNA一致=99.9%犯人」ではないのか?

100万人の中で:

  • 犯人(1人):99.9%の確率でDNA一致 → 約1人
  • 無関係の人(999,999人):0.1%の確率で偶然一致 → 約1,000人

つまり、DNA鑑定で一致する人は約1,001人もいる!その中で本当の犯人はたった1人

だから、DNA一致だけでは「1001人中の1人」つまり約0.1%の確率でしか犯人ではない。

住民100万人 犯人(1人) 99.9%で一致 無関係 (999,999人) 0.1%で偶然一致 DNA一致者:約1,001人 犯人1人 + 偶然1,000人 ≈1人 ≈1000人
図5.10: DNA鑑定の結果と事前確率の重要性

教訓

  • 検査の精度だけでは判断できない:「99.9%一致」は検査の精度であって、犯人である確率ではない。
  • 事前確率(ベースレート)が重要:100万人中1人という事前確率を無視してはいけない。
  • 偽陽性の数を考える:精度が高くても、母集団が大きければ偽陽性の絶対数は多くなる。
  • 他の証拠との組み合わせ:DNA鑑定だけでなく、アリバイや動機などの他の証拠と総合的に判断すべき。

実際の裁判への影響

もし他に容疑を示す証拠(目撃証言、動機、現場にいた証拠など)があれば、事前確率は100万分の1よりはるかに高くなり、DNA一致によって犯人である確率は大幅に上がる。逆に、他に証拠がなくDNA一致だけでは、有罪とするには不十分である。ベイズの定理を理解していれば、証拠の正しい評価ができる。

5.7 独立事象

2つの事象AとBについて、Aが起こってもBの確率が変わらないとき、AとBは独立であるという。

定義:独立事象

2つの事象 $A$, $B$ が独立であるとは、

$$P(A \cap B) = P(A) \times P(B)$$

が成り立つことをいう。

定理:独立性の同値条件

$P(A) > 0$, $P(B) > 0$ のとき、次は同値:

  1. $P(A \cap B) = P(A) \times P(B)$
  2. $P(B|A) = P(B)$
  3. $P(A|B) = P(A)$
証明

(1) ⇔ (2) の証明:

条件付き確率の定義より、

$$P(B|A) = \dfrac{P(A \cap B)}{P(A)}$$

$P(B|A) = P(B)$ が成り立つことと、

$$\dfrac{P(A \cap B)}{P(A)} = P(B) \iff P(A \cap B) = P(A) \times P(B)$$

は同値である。

(1) ⇔ (3) も同様に示せる。

例:コインを2回投げる

1回目に表が出ることと、2回目に表が出ることは独立。

$$P(\text{2回とも表}) = \dfrac{1}{2} \times \dfrac{1}{2} = \dfrac{1}{4}$$
独立(コイン) 1回目 2回目 互いに影響なし 独立でない(くじ) 1本目 2本目 1本目の結果で 確率が変わる
図5.11: 独立と独立でない事象の違い

独立でない例:くじ引き(戻さない)

10本のくじがあり、そのうち当たりが3本ある。このくじを戻さずに2本引く。

  • $A$:1本目が当たり → $P(A) = \dfrac{3}{10}$
  • $B$:2本目が当たり

1本目の結果によって2本目の確率が変わる:

  • 1本目が当たりの場合:残り9本中、当たりは2本 → $P(B|A) = \dfrac{2}{9}$
  • 1本目が外れの場合:残り9本中、当たりは3本 → $P(B|\overline{A}) = \dfrac{3}{9} = \dfrac{1}{3}$

$P(B|A) \neq P(B)$ なので、AとBは独立ではない

対比:もし戻してから引く場合、1本目の結果に関わらず2本目の確率は常に $\dfrac{3}{10}$ なので、独立になる。

複数枚買っても期待値は同じ? ― 年末ジャンボ宝くじの例

宝くじのように「戻さない」抽選では、1枚目と2枚目の当選は独立ではない。しかし、意外なことに1枚あたりの期待値は変わらない

具体例:年末ジャンボ宝くじ

年末ジャンボ宝くじは1枚300円で、還元率は約50%に設定されている(賞金総額が販売総額の約半分)。つまり、1枚あたりの期待値は約150円である。

1枚だけ買う場合

  • 期待値:$E[X_1] = 150\text{円}$
  • 期待利益:$150 - 300 = -150\text{円}$

2枚買う場合の2枚目の期待値

1枚目を買った後、2枚目を買う。1枚目の結果によって2枚目の当選確率は変わる(独立ではない)が、期待値はどうなるか?

実は、対称性により2枚目の期待値も150円。これは次のように理解できる:

  • 発行された全ての宝くじは対称的(どの券も同じ立場)
  • 1枚目だけが特別なわけではない
  • 何枚目に買っても、1枚あたりの期待値は変わらない

結論:何枚買っても、1枚あたりの期待値は150円で変わらない!

なぜ期待値は変わらないのか?

これは期待値の線形性による。期待値の線形性は、事象が独立でなくても成り立つ:

$$E[X_1 + X_2] = E[X_1] + E[X_2]$$

全体の賞金総額は決まっており、それが全ての券に対称的に分配される。だから、何枚買っても1枚あたりの期待値は同じになる。

たくさん買えば得する?

「たくさん買えば当たる確率が上がるから得だ」と思うかもしれないが、これは誤解である。

  • 1枚買う:期待利益 = 150 - 300 = -150円
  • 10枚買う:期待利益 = 1500 - 3000 = -1500円
  • 100枚買う:期待利益 = 15000 - 30000 = -15000円

たくさん買えば当たる確率は上がるが、期待損失も枚数に比例して増えるだけである。

注意:独立と排反の違い

「独立」と「排反」はよく混同されるが、まったく異なる概念である。

概念 意味 ベン図 公式
独立 一方が起きても他方に影響しない 重なりあり(通常) $P(A \cap B) = P(A) \times P(B)$
排反 同時に起きない 重なりなし $P(A \cap B) = 0$

重要な注意

排反な事象($P(A \cap B) = 0$)は独立ではない($P(B) > 0$ のとき)。
なぜなら、Aが起きたとわかったら、Bは絶対に起きないとわかるので、確率が変わってしまうから。

5.8 この章のまとめ

公式一覧

公式・概念 意味
条件付き確率 $$P(A|B) = \dfrac{P(A \cap B)}{P(B)}$$ Bが起こったときAが起こる確率
乗法定理 $$P(A \cap B) = P(B) \times P(A|B)$$ 両方起こる確率を2段階で計算
全確率の公式 $$P(A) = \sum_{i} P(B_i)P(A|B_i)$$ 場合分けして確率を足す
ベイズの定理 $$P(B_i|A) = \dfrac{P(B_i)P(A|B_i)}{P(A)}$$ 結果から原因の確率を逆算
独立事象 $$P(A \cap B) = P(A) \times P(B)$$ 互いに影響しない

キーワード復習

条件付き確率

$P(A|B)$:Bが起こったときにAが起こる確率

乗法定理

同時に起こる確率を2段階で計算

全確率の公式

場合分けして確率を足し合わせる

ベイズの定理

結果から原因の確率を逆算

事前確率・事後確率

情報を得る前・後の確率

独立事象

一方が起きても他方の確率が変わらない

重要用語まとめ

📚 用語集を開く
条件付き確率 $P(A|B)$
Bが起こったという条件のもとでAが起こる確率。Bを新しい全体として考える。
乗法定理
$P(A \cap B) = P(B) \times P(A|B)$。AとBが両方起こる確率を2段階で計算する公式。
全確率の公式
$P(A) = \sum_i P(B_i)P(A|B_i)$。場合分けして確率を足し合わせる公式。
ベイズの定理
$P(B_i|A) = \dfrac{P(B_i)P(A|B_i)}{P(A)}$。結果から原因の確率を逆算する公式。
事前確率
情報を得る前の確率。ベイズの定理では $P(B_i)$。
事後確率
情報(結果A)を得た後の確率。ベイズの定理では $P(B_i|A)$。
尤度(ゆうど)
原因 $B_i$ のもとで結果Aが起こる確率 $P(A|B_i)$。
独立事象
$P(A \cap B) = P(A) \times P(B)$ が成り立つ事象。一方が起きても他方の確率が変わらない。
排反事象
$P(A \cap B) = 0$。同時に起きない事象。独立とは異なる概念。

練習問題

問題1

サイコロを振って3以上だったとき、それが偶数である確率は?

問題2

トランプから2枚引く(戻さない)。1枚目がスペードだったとき、2枚目もスペードである確率は?

問題3

男子6人、女子4人から2人選ぶ。1人目が男子だったとき、2人目も男子である確率は?

問題4

ある病気の検査について:

  • 人口の1%がその病気
  • 病気の人が検査すると、99%の確率で陽性
  • 病気でない人が検査すると、2%の確率で陽性(偽陽性)

検査で陽性だった人が実際に病気である確率は?

問題5(独立事象の判定)

サイコロを2回振る。次の事象について答えよ。

  • $A$:1回目が偶数
  • $B$:2回目が3以上
  • $C$:目の和が7

(1) $A$ と $B$ は独立か?

(2) $A$ と $C$ は独立か?

問題1の解答

問題1の解答と解説

考え方:「3以上」という条件($B$)のもとで、「偶数」($A$)である確率を求める。

  • $B$:3以上 → $\{3, 4, 5, 6\}$ の4通り
  • $A$:偶数 → $\{2, 4, 6\}$
  • $A \cap B$:3以上かつ偶数 → $\{4, 6\}$ の2通り

条件付き確率の定義より:

$$P(A|B) = \dfrac{P(A \cap B)}{P(B)} = \dfrac{2/6}{4/6} = \dfrac{2}{4} = \dfrac{1}{2}$$

答え:$\dfrac{1}{2}$

問題2の解答

問題2の解答と解説

考え方:1枚目がスペードだったので、残りは51枚。そのうちスペードは12枚。

  • 全トランプ:52枚(各スート13枚)
  • 1枚目がスペード → 残り51枚
  • 残りのスペード:13 - 1 = 12枚
$$P = \dfrac{12}{51} = \dfrac{4}{17}$$

答え:$\dfrac{4}{17}$

問題3の解答

問題3の解答と解説

考え方:1人目が男子なら、残りは9人でそのうち男子は5人。

  • 最初:男子6人、女子4人(計10人)
  • 1人目が男子 → 残り9人
  • 残りの男子:6 - 1 = 5人
$$P = \dfrac{5}{9}$$

答え:$\dfrac{5}{9}$

問題4の解答

問題4の解答と解説

考え方:ベイズの定理を使う。陽性という「結果」から、病気という「原因」の確率を求める。

  • $P(\text{病気}) = 0.01$(事前確率)
  • $P(\text{陽性}|\text{病気}) = 0.99$(感度)
  • $P(\text{陽性}|\text{健康}) = 0.02$(偽陽性率)

まず全確率の公式で、陽性になる確率を求める:

$$P(\text{陽性}) = 0.01 \times 0.99 + 0.99 \times 0.02 = 0.0099 + 0.0198 = 0.0297$$

ベイズの定理より:

$$P(\text{病気}|\text{陽性}) = \dfrac{0.01 \times 0.99}{0.0297} = \dfrac{0.0099}{0.0297} \approx 0.333$$

答え:約33%(約3人に1人)

重要:検査の精度が99%でも、病気の人が少ない(1%)ため、陽性でも実際に病気の確率は33%程度。事前確率の重要性を示す典型例。

問題5の解答

問題5の解答と解説

(1) $A$ と $B$ は独立か?

考え方:1回目と2回目は独立なので、$A$ と $B$ も独立。確認してみる:

  • $P(A) = \dfrac{3}{6} = \dfrac{1}{2}$(1回目が偶数)
  • $P(B) = \dfrac{4}{6} = \dfrac{2}{3}$(2回目が3以上)
  • $P(A \cap B) = \dfrac{3}{6} \times \dfrac{4}{6} = \dfrac{12}{36} = \dfrac{1}{3}$
  • $P(A) \times P(B) = \dfrac{1}{2} \times \dfrac{2}{3} = \dfrac{1}{3}$

$P(A \cap B) = P(A) \times P(B)$ なので、独立である

(2) $A$ と $C$ は独立か?

考え方:和が7になるには特定の組み合わせが必要。1回目が偶数かどうかで確率が変わるか調べる。

  • $P(C) = \dfrac{6}{36} = \dfrac{1}{6}$(和が7:(1,6),(2,5),(3,4),(4,3),(5,2),(6,1)の6通り)
  • $P(A \cap C)$:1回目が偶数かつ和が7 → (2,5),(4,3),(6,1)の3通り → $\dfrac{3}{36} = \dfrac{1}{12}$
  • $P(A) \times P(C) = \dfrac{1}{2} \times \dfrac{1}{6} = \dfrac{1}{12}$

$P(A \cap C) = P(A) \times P(C)$ なので、独立である

なぜ独立になるのか:1回目の目が偶数か奇数かにかかわらず、2回目の目を適切に選べば和を7にできる。具体的には、1回目が2なら2回目は5、1回目が4なら2回目は3、1回目が6なら2回目は1。どの場合も確率は同じ$\dfrac{1}{6} \times \dfrac{1}{6} = \dfrac{1}{36}$。よって全体では$\dfrac{3}{36} = \dfrac{1}{12}$。

同様に、1回目が奇数の場合(1,3,5)でも、それぞれ2回目を適切に選べば(6,4,2)和が7になり、確率は同じ$\dfrac{3}{36} = \dfrac{1}{12}$。このように、1回目が偶数でも奇数でも和が7になる確率は変わらない(対称性による)。