第2章: 曲面論
曲面の曲がり方を解析する
このページの目標
第一基本形式(長さ・角度)と第二基本形式(曲がり方)を理解する。ガウス曲率と平均曲率を定義し、曲面の局所的性質を学ぶ。
1. 正則曲面
パラメータ曲面 $\mathbf{r}(u, v): U \to \mathbb{R}^3$ が正則であるとは:
$$\mathbf{r}_u \times \mathbf{r}_v \neq 0$$ここで $\mathbf{r}_u = \partial\mathbf{r}/\partial u$。
各点 $p=\mathbf{r}(u,v)$ で、2つの偏微分 $\mathbf{r}_u,\mathbf{r}_v$ は接平面 $T_pS$ を張り、その外積が接平面に直交する単位法線 $\mathbf{n}$ を定める。
$\mathbf{n}$
$\mathbf{r}_v$
$\mathbf{r}_u$
$p$
$T_pS$
$\mathbf{r}(u,v)$
2. 第一基本形式
曲面上の長さ・角度・面積を測る計量(誘導計量):
$$\mathrm{I} = ds^2 = E\,du^2 + 2F\,du\,dv + G\,dv^2$$ここで:
$$E = \mathbf{r}_u \cdot \mathbf{r}_u, \quad F = \mathbf{r}_u \cdot \mathbf{r}_v, \quad G = \mathbf{r}_v \cdot \mathbf{r}_v$$- 弧長:$\displaystyle\int \sqrt{E\dot{u}^2 + 2F\dot{u}\dot{v} + G\dot{v}^2}\,dt$
- 曲線間の角度:$\cos\theta = \dfrac{E\dot{u}_1\dot{u}_2 + F(\dot{u}_1\dot{v}_2 + \dot{u}_2\dot{v}_1) + G\dot{v}_1\dot{v}_2}{\sqrt{E\dot{u}_1^2 + 2F\dot{u}_1\dot{v}_1 + G\dot{v}_1^2}\sqrt{E\dot{u}_2^2 + 2F\dot{u}_2\dot{v}_2 + G\dot{v}_2^2}}$
- 面積:$\iint \sqrt{EG - F^2}\,du\,dv$
3. 第二基本形式
曲面の曲がり方を表す2次形式:
$$\mathrm{II} = L\,du^2 + 2M\,du\,dv + N\,dv^2$$ここで:
$$L = \mathbf{r}_{uu} \cdot \mathbf{n}, \quad M = \mathbf{r}_{uv} \cdot \mathbf{n}, \quad N = \mathbf{r}_{vv} \cdot \mathbf{n}$$第二基本形式の幾何学的意味は法曲率で捉えられる。点 $p$ で単位法線 $\mathbf{n}$ と接方向 $\mathbf{t}$ を含む平面(法平面)で曲面を切ると、その交わりに 1 本の曲線(法断面曲線、normal section)が現れる。この曲線の $p$ における曲率が、その方向の法曲率 $\kappa_n$ である。
接方向を $du:dv$ で表すと、法曲率は 2 つの基本形式の比として与えられる。これが第二基本形式が「何を測っているか」を端的に示す式である:
$$\kappa_n = \frac{\mathrm{II}}{\mathrm{I}} = \frac{L\,du^2 + 2M\,du\,dv + N\,dv^2}{E\,du^2 + 2F\,du\,dv + G\,dv^2}$$
$\mathbf{n}$
$\mathbf{t}$
$p$
法平面
法断面曲線($\kappa_n$)
4. 主曲率とガウス曲率
各点で法曲率(法線方向の曲がり)の最大値と最小値を主曲率 $\kappa_1, \kappa_2$ という。
これらは次の固有値問題の解:
$$\det\begin{pmatrix} L - \kappa E & M - \kappa F \\ M - \kappa F & N - \kappa G \end{pmatrix} = 0$$すなわち、主曲率は形作用素(ワインガルテン写像) $S = \mathrm{I}^{-1}\,\mathrm{II}$ の固有値であり、対応する固有方向を主方向という。
- ガウス曲率:$K = \kappa_1 \kappa_2 = \dfrac{LN - M^2}{EG - F^2}$
- 平均曲率:$H = \dfrac{\kappa_1 + \kappa_2}{2} = \dfrac{EN - 2FM + GL}{2(EG - F^2)}$
ここで $E,F,G$ は第一基本形式、$L,M,N$ は第二基本形式の係数である。
ガウス曲率 $K=\kappa_1\kappa_2$ の符号は、点のまわりで曲面がどちら向きに曲がるかを分類する。2つの主曲率が同符号なら $K>0$(お椀型)、片方が $0$ なら $K=0$(展開可能。円柱のように内在的には平坦だが外在的には曲がりうる)、異符号なら $K<0$(鞍型)である。
$K>0$球面型 $K=0$
平坦(円柱) $K<0$
鞍点型
ガウス曲率 $K$ は第一基本形式 $E, F, G$ とその導関数のみから計算できる。
つまり、$K$ は曲面の内在的な量である(曲面を曲げても変わらない)。
- 半径 $R$ の球面:$K = 1/R^2$(一定正)
- 平面:$K = 0$
- 円柱:$K = 0$(平面と同様に曲げられる)
まとめ
この章のポイント
- 第一基本形式:曲面上の長さ・角度・面積を測る
- 第二基本形式:曲面の曲がり方を記述
- ガウス曲率:$K = \kappa_1 \kappa_2$(内在的な量)
- 驚異の定理:$K$ は第一基本形式のみで決まる
よくある質問
Q1. 第一基本形式は何を測るか
第一基本形式 $\mathrm{I}=E\,du^2+2F\,du\,dv+G\,dv^2$($E=\mathbf{r}_u\cdot\mathbf{r}_u$, $F=\mathbf{r}_u\cdot\mathbf{r}_v$, $G=\mathbf{r}_v\cdot\mathbf{r}_v$)は、曲面上の弧長・角度・面積を曲面内在的に測る計量である。リーマン計量の2次元版であり、曲面を周囲空間へどう埋め込んだかによらない内在的な幾何は第一基本形式だけで決まる。
Q2. 第二基本形式の幾何学的意味は何か
第二基本形式 $\mathrm{II}=L\,du^2+2M\,du\,dv+N\,dv^2$($L=\mathbf{r}_{uu}\cdot\mathbf{n}$ 等)は、曲面が周囲空間(通常は $\mathbb{R}^3$)の中でどう曲がっているかを表す。単位法線 $\mathbf{n}$ と接方向を含む法平面で曲面を切った法断面曲線の曲率が法曲率 $\kappa_n$ で、これは第二基本形式と第一基本形式の比として与えられる。主曲率はこの比の最大値・最小値である。
Q3. 驚異の定理は何を主張するか
ガウスの驚異の定理(Theorema Egregium)は、ガウス曲率 $K=\kappa_1\kappa_2$ が第一基本形式 $E,F,G$ とその導関数だけから計算できると主張する。つまり $K$ は曲面を引き伸ばさずに曲げても変わらない内在的な量である。この事実から、球面($K=1/R^2>0$)を平面($K=0$)へ歪みなく展開できないことが分かり、平面の世界地図に必ず歪みが生じる理由にもなる。