Z変換 初級

性質と逆変換(大学1-2年レベル)

初級の概要

収束領域(ROC)の3つのパターン 因果信号、反因果信号、両側信号それぞれの収束領域と波形例をz平面上に図示した概念図 因果信号 Causal(n ≥ 0 で非零) x[n] n 0 |z|=1 Re Im ROC |z| > |極|(外側の領域) ✓ ROCが単位円を含む 反因果信号 Anti-causal(n ≤ −1 で非零) x[n] n 0 |z|=1 Re Im ROC |z| < |極|(内側の領域) ✓ ROCが単位円を含む 両側信号 Two-sided(両側に非零成分) x[n] n 0 |z|=1 Re Im 極₁ 極₂ ROC |極₁| < |z| < |極₂|(リング領域) ✓ ROCが単位円を含む 安定性の条件 BIBO安定 ⟺ ROC(Σx[n] z−n が収束する領域)が単位円 |z|=1 を含む まとめ: 因果信号 → ROCは外側 反因果信号 → ROCは内側 両側信号 → ROCはリング領域 = 単位円(|z| = 1) ROC = Region of Convergence(収束領域) × = 極(実際には複数の極を持つ場合が多い)
図 1: 収束領域(ROC)の3つのパターン — 因果信号・反因果信号・両側信号それぞれのROCと波形例。図中の「ROCが単位円を含む」は、その信号をLTIシステムのインパルス応答 $h[n]$ とみなしたときにシステムが BIBO 安定であることに対応する。安定性は信号そのものではなくシステムの性質である。

入門では片側Z変換の定義と基本的な変換公式、伝達関数・極の概念を学んだ。初級では、Z変換の理論的な基盤をより深く理解する。複素変数 $z$ の意味、収束領域(ROC)の概念、両側Z変換と因果性・安定性の関係、畳み込み、逆変換の技法、初期値・最終値定理を学ぶ。

学習目標

  • 複素変数 $z$ の極形式表現と DTFT との関係を理解する
  • Z変換の線形性、時間シフト性を活用できる
  • 収束領域(ROC)と両側Z変換を理解する
  • 部分分数分解による逆Z変換ができる
  • 因果性・安定性とROCの関係を理解する
  • 初期値定理・最終値定理を応用できる

目次

  1. 第1章 Z変換の性質

    複素変数 $z$ の意味、DTFT との関係、z領域微分、スケーリング、時間反転、共役、畳み込み

  2. 第2章 収束領域(ROC)

    級数の収束、ROCの形状、両側Z変換、因果・反因果信号の対比

  3. 第3章 畳み込み定理

    離散畳み込み定理、LTIシステム、伝達関数、直列・並列接続

  4. 第4章 逆Z変換

    部分分数分解、べき級数展開

  5. 第5章 初期値定理・最終値定理

    逆変換せずに初期値・定常値を求める

前提知識

  • Z変換 入門の内容(片側Z変換の定義、基本的な変換公式、伝達関数と極)
  • 複素数の演算(極形式 $z = re^{j\omega}$)
  • 部分分数分解

読み物

  1. 漸化式を代数に変える [読み物]

    次の項が前の項で決まる漸化式を、Z変換でまるごと一本の式に押し込めると、未来の項が代数だけで取り出せる。フィボナッチ数列と母関数を題材に、その爽快さを肩の力を抜いて語る。

  2. 音を作りかえる小さな仕掛け [読み物]

    ノイズをならす移動平均と、やまびこを生むエコー。身近な二つの効果を入り口に、過去の値を混ぜて音を作りかえるデジタルフィルタの仕組みと、それがなぜ z の式できれいに書けるのかを語る。

  3. 単位円をひとめぐり [読み物]

    なぜ z は複素数で、単位円だけが特別扱いされるのか。z を半径と角度に分けると、半径が増減を、角度が周波数を語っていた。回転と周波数のつながりを、サンプリングの話を交えて肩の力を抜いて語る。

よくある質問

Q1. Z変換の収束領域(ROC)とは何か

Z変換 $X(z) = \sum x[n] z^{-n}$ が収束する $z$ の範囲を収束領域(ROC)という。因果信号では $|z| > R$ の形(円の外側)、反因果信号では $|z| < R$ の形(円の内側)、両側信号では $R_1 < |z| < R_2$ のリング領域となる。同じ $X(z)$ でも ROC が異なれば異なる信号に対応するため、両側Z変換では ROC の指定が不可欠である。

Q2. 逆Z変換はどのように求めるか

実用上最も多く使われる方法は部分分数分解である。$X(z)/z$ を部分分数に分解し、各項を既知のZ変換ペア(例: $z/(z-a) \leftrightarrow a^n u[n]$)と照合して時間領域の信号を求める。べき級数展開(長除法)による方法もある。

Q3. Z変換における安定性の条件は何か

離散時間システムが BIBO 安定(有界入力有界出力安定)であるためには、そのインパルス応答のZ変換 $H(z)$ の ROC が単位円 $|z| = 1$ を含む必要がある。因果システムの場合、これはすべての極が単位円の内側($|z| < 1$)にあることと等価である。