第1章 命題とは何か

入門(高校〜大学1年レベル)

1.1 命題とは

定義:命題

命題(proposition)とは、真か偽かがはっきり決まる文のことである。

ポイントは「はっきり決まる」という点である。

  • その文が正しければ「真」(True)
  • その文が間違っていれば「偽」(False)

どちらでもない、あいまいな文は命題ではない。

なお「決まる」は「私たちが判定できる」という意味ではない。たとえば「4 以上のすべての偶数は 2 つの素数の和で表せる」(ゴールドバッハ予想)は、真か偽のどちらかであることは確かだが、まだ誰も証明も反証もしていない。それでもこれは命題である。

命題 正しければ 間違っていれば 真 (True) 偽 (False)
図1.1: 命題は真か偽かのどちらかに決まる

1.2 命題の例

例1:真である命題

  • 「$2 + 3 = 5$」 → 真
  • 「日本の面積はロシアの面積より小さい」 → 真
  • 「$6$ は $2$ で割り切れる」 → 真
  • 「すべての正方形は長方形である」 → 真

例2:偽である命題

  • 「$2 + 3 = 6$」 → 偽
  • 「地球は平らである」 → 偽
  • 「$7$ は偶数である」 → 偽
  • 「すべての長方形は正方形である」 → 偽

重要なポイント

偽である命題も「命題」であることに注意されたい。「$2 + 3 = 6$」は間違っているが、間違っていることが「はっきり決まる」ので命題である。

1.3 そのままでは命題でない文の例

以下のような文は、そのままでは命題ではない。

例1:疑問文

  • 「今日は何曜日か?」
  • 「$x$ の値はいくつか?」

→ 疑問文は質問であり、真偽を判定する対象ではない。

例2:命令文・感嘆文

  • 「ドアを閉めよ」
  • 「なんて美しい景色だ!」

→ 行動や感情を表しており、真偽の対象ではない。

例3:あいまいな文

  • 「彼は背が高い」
  • 「この料理はおいしい」

→ 「高い」「おいしい」の基準(と「彼」「この料理」が指す対象)を定めないままでは、真偽を一意に決められない。「身長 180 cm 以上を背が高いとする」のように基準と対象を定めれば命題になる。

命題 「2 + 3 = 5」 「7 は偶数」 「富士山は日本にある」 真偽が一意に決まる 命題でない 「今何時か?」 「勉強しろ」 「この料理はおいしい」 真偽が決まらない
図1.2: 命題と命題でないものの区別

1.4 真偽値

定義:真偽値

命題の「真」または「偽」という値を真偽値(truth value)という。

真偽値は次のように表記することがある:

真 偽
True, T, 1, ○ False, F, 0, ×

どの表記を使うかは分野による(1 と 0 は計算機科学、○ と × は日本の日常的な表記)。論理学では、記号 $\top$(真)と $\bot$(偽)を使うこともある。

1.5 変数を含む文

次の文を考えてみよう:

「$x$ は偶数である」($x$ は整数)

これは命題だろうか?

答え:そのままでは命題ではない

$x$ の値が決まっていないので、この文だけでは真偽が定まらない(1.3 のあいまいな文と違い、$x$ に値を入れれば決まる)。

  • $x = 4$ なら → 真
  • $x = 5$ なら → 偽

定義:命題関数(条件)

変数を含み、変数に具体的な値を代入すると命題になる文を命題関数または条件という(述語とも呼ぶ)。

ここで $x$ は整数を表すものとする。このように、変数が動く範囲(変域)を決めて初めて命題関数は意味を持つ。「$x$ は偶数である」を $P(x)$ のように書く。

なお、変数を含む文でも「すべての整数 $x$ について $P(x)$」「$P(x)$ となる整数 $x$ がある」の形にすれば、代入しなくても真偽が決まり、命題になる。1.2 の「すべての正方形は長方形である」はこの形である。

命題関数 P(x): x は偶数 x = 4 を代入 x = 5 を代入 P(4) = 真 P(5) = 偽
図1.3: 命題関数に値を代入すると命題になる

1.6 この章のまとめ

用語 意味
命題 真か偽かがはっきり決まる文
真偽値 「真」または「偽」の値
命題関数 変数を含み、代入すると命題になる文

次章の予告

次章では、命題を組み合わせる「論理演算」を学ぶ。「かつ」「または」「でない」の正確な意味と真理値表を理解しよう。

よくある質問

Q1: 命題とは何か。

A: 命題とは「真か偽のどちらか一方に確定的に定まる文」をいう。「2 は素数である」(真)や「全ての偶数は 4 の倍数である」(偽)は命題であるが、「$x$ は正の数である」は $x$ によって真偽が変わるため命題関数(条件)と呼ばれる。

Q2: 命題関数と命題の違いは何か。

A: 命題は変数を含まず、それだけで真偽が確定している。命題関数(条件)は変数を含み、変数の値が決まって初めて真偽が確定する。「$n$ は偶数である」は $n = 4$ なら真、$n = 3$ なら偽となる。

Q3: 数学で命題を厳密に扱うのはなぜ重要か。

A: 直感や「なんとなく正しそう」という感覚は数学では不十分である。命題の真偽を、定義とすでに正しいと分かっている事実から論理的に確かめる手続きが「証明」であり、これによって例をいくつ調べても決着しない主張(「すべての〜について」の形の命題など)も確定できる。数学の厳密さの基礎は「何が証明されていて何が仮定かを明確にする」ことにある。