第1章: 曲線のパラメータ表示
曲線の定義、正則曲線、パラメータ変換
はじめに
微分幾何学では、曲線を「パラメータ」によって表現する。これにより、曲線上の各点を1つの変数で指定でき、微分法を用いて曲線の性質を調べることができる。
曲線の定義
定義:パラメータ曲線
開区間 $I \subset \mathbb{R}$ から $\mathbb{R}^n$($n \geq 2$)への滑らかな写像
$$\gamma: I \to \mathbb{R}^n, \quad t \mapsto \gamma(t) = (\gamma_1(t), \gamma_2(t), \ldots, \gamma_n(t))$$をパラメータ曲線(parametric curve)という。微分幾何学では主に $n = 2$(平面曲線)または $n = 3$(空間曲線)を扱う。
図1:パラメータ曲線 — 区間 $[a, b]$ の各点 $t$ が曲線上の点 $\gamma(t)$ に対応する。赤い矢印は接ベクトル $\gamma'(t)$ を表す。
例:円と放物線
例1:単位円
$$\gamma(t) = (\cos t, \sin t), \quad t \in [0, 2\pi]$$パラメータ $t$ は角度(弧度法)に対応する。
図2:単位円のパラメータ表示 — パラメータ $t$ が角度に対応し、点 $\gamma(t)$ が円周上を反時計回りに動く。
例2:放物線
$$\gamma(t) = (t, t^2), \quad t \in \mathbb{R}$$$y = x^2$ のグラフをパラメータ表示したもの。
図3:放物線のパラメータ表示 — $y = x^2$ のグラフを $\gamma(t) = (t, t^2)$ で表す。赤い矢印は $t = 1$ での接ベクトル $\gamma'(1) = (1, 2)$ を示す。
例3:らせん(helix)
$$\gamma(t) = (a\cos t, a\sin t, bt), \quad t \in \mathbb{R}$$$a > 0$, $b \neq 0$ のとき、円柱に巻き付くらせんを表す。
図4:らせん(helix)— $z$ 軸を中心に上昇する螺旋曲線 $\gamma(t) = (a\cos t, a\sin t, bt)$。赤い矢印は接ベクトル $\gamma'(t)$ を表す。
正則曲線
定義:正則曲線
パラメータ曲線 $\gamma: I \to \mathbb{R}^n$ が正則(regular)であるとは、$\gamma$ が $C^1$ 級(少なくとも1回連続微分可能)であり、すべての $t \in I$ で
$$\gamma'(t) \neq \mathbf{0}$$が成り立つことをいう。$\gamma'(t)$ を速度ベクトルという。
正則性は2つの条件を要求する:(1) 微分可能であること(尖点を持たない)、(2) 導関数がゼロにならないこと(止まっている点を持たない)。これにより曲線の各点で接線方向が一意に定まる。
速度ベクトルの意味
$\gamma'(t) = \left(\frac{d\gamma_1}{dt}, \frac{d\gamma_2}{dt}, \ldots, \frac{d\gamma_n}{dt}\right)$ は、パラメータ $t$ における曲線の接線方向を表す。パラメータ $t$ を時刻と解釈すれば、$\gamma'(t)$ は質点の速度に対応し、正則性は「常に動いている」ことを意味する。
例:正則でない曲線
$$\gamma(t) = (t^3, t^2), \quad t \in \mathbb{R}$$$\gamma'(t) = (3t^2, 2t)$ より、$t = 0$ で $\gamma'(0) = (0, 0)$。したがって $t = 0$ で正則でない。
この曲線は原点で尖点(cusp)を持つ。
図5:正則でない曲線 $\gamma(t) = (t^3, t^2)$ — 原点で尖点を持つ。$t = 0$ で $\gamma'(0) = \mathbf{0}$ となり、接線方向が定まらない。
パラメータ変換
同じ曲線を異なるパラメータで表現できる。たとえば単位円 $\gamma(t) = (\cos t, \sin t)$ に対し、$\phi(s) = s^2$ とおくと
$$\tilde{\gamma}(s) = \gamma(s^2) = (\cos s^2, \sin s^2)$$は同じ円を辿るが、速度が異なる。$\gamma$ は等速で円を回るのに対し、$\tilde{\gamma}$ は $s$ が小さいとき遅く、大きくなるにつれて加速する。幾何学的には同じ曲線だが、パラメータの「刻み方」が違う。(ただし $\phi'(s) = 2s$ は $s = 0$ でゼロになるため、厳密には $s > 0$ の範囲でのみ正則な再パラメータ化である。)
図6:再パラメータ化の比較 — 同じ単位円をパラメータ $t$(左)と $s^2$(右)で辿る。$t$ を等間隔にとると円周上のノードも等間隔になるが、$s$ を等間隔にとると始点付近にノードが密集し、進むにつれて間隔が広がる。
定義:パラメータ変換
$\phi: J \to I$ が滑らかで $\phi'(s) \neq 0$ を満たすとき、$\tilde{\gamma} = \gamma \circ \phi$ を $\gamma$ の再パラメータ化(reparametrization)という。
$$\tilde{\gamma}(s) = \gamma(\phi(s))$$命題:再パラメータ化の速度
$\tilde{\gamma} = \gamma \circ \phi$ のとき、連鎖律より
$$\tilde{\gamma}'(s) = \gamma'(\phi(s)) \cdot \phi'(s)$$したがって、$\gamma$ が正則で $\phi' \neq 0$ なら $\tilde{\gamma}$ も正則。
$\phi' > 0$ のとき「向きを保つ」再パラメータ化、$\phi' < 0$ のとき「向きを逆にする」再パラメータ化という。
まとめ
- 曲線は区間から空間への滑らかな写像として定義される
- 正則曲線は、すべての点で速度ベクトルがゼロでない曲線
- 同じ曲線を異なるパラメータで表現できる(再パラメータ化)
- 微分幾何では正則曲線を扱うことが基本