ガウスと複素平面
複素数を「平面上の点」として見る視点の誕生
このページの目標
「複素数 = 平面上の点」という現代では常識の見方が、いかに革命的だったかを知る。
前提知識
- 座標平面の基本
- 虚数誕生史
§1 幾何的解釈の必要
カルダーノ・ボンベリ以来、虚数は「計算の便宜」として使われ続けたが、本質的に「数とは何か」という問いには答えが出ていなかった。18 世紀末から 19 世紀にかけても「虚数は本当に存在するのか?」という哲学的議論が続いた。
§2 ガウスの平面表示
カール・フリードリヒ・ガウスは早くから、複素数 $z = a + bi$($a, b$ は実数)を平面上の点 $(a, b)$ と同一視する見方を持っていた。1799 年の学位論文では、実係数の多項式が実数の 1 次式と 2 次式の積に分解できること(代数学の基本定理の実係数の場合)を証明した(幾何的な議論に残っていた隙間は、1920 年にオストロフスキーが埋めた。複素係数の形で定理を述べたのは 1806 年のアルガンが最初とされる)。ただし、複素数を平面上の点として明確に論じた論文を公表したのは 1831 年であった。
同じ幾何的表示は、デンマーク=ノルウェーの測量家カスパー・ウェッセルが 1797 年に発表し(1799 年公刊)、のちにアルガンも独立に示した (1806)。ウェッセルの論文はデンマーク語で書かれ、約 100 年のあいだほとんど知られなかった。この見方が「ガウス平面」として広まったのは、ガウスの大きな影響力によるところが大きい。
こうして「虚数とは何か」という形而上学的問題に、シンプルな幾何学的答えの一つが与えられた: 複素数は平面上の点と自然に対応する。ただし点と対応させるだけでは掛け算は決まらない。実数の組 $(a, b)$ に足し算と掛け算を定めて複素数を厳密に構成したのは、1830 年代のハミルトンである。
§3 演算の幾何的意味
幾何的に見ると複素数の演算は自然な形で理解できる:
- 足し算: 原点からの位置ベクトルとみなしたベクトルの和 (平行四辺形)
- 掛け算: $w \neq 0$ を掛けると、原点のまわりに $\arg w$ だけ回転し、原点からの距離が $|w|$ 倍になる(回転と拡大・縮小)
- 共役: 実軸での鏡映
- 絶対値: 原点からの距離
これにより複素数の代数は「抽象的記号操作」から「具体的な幾何操作」になった。後の複素解析・関数論では、複素平面が複素変数の関数を考える基本の舞台になった(特にリーマンの幾何学的な見方)。
§4 まとめ
- 複素数の幾何的表示はウェッセル(1797 年に発表・1799 年に公刊)が先で、ガウスの明確な公表は 1831 年
- 複素数を平面上の点に対応させる見方
- 基本的な演算が幾何操作に対応する
- 後の複素解析を支える重要な基盤の一つ
よくある質問
「アルガン図」とも呼ばれるのか?
1806 年にスイス(ジュネーヴ)出身のアルガンが同様の図を発表したため、英語圏では Argand diagram と呼ばれる。ガウスも早くからこの見方を持っていたが、明確に公表したのは 1831 年だった。
複素数にはどんな表し方があるか?
直交座標の $z = a + bi$ のほか、極座標表示 $z = r e^{i\theta}$ がよく使われる($z \neq 0$ のとき。$r = |z|$ で、偏角 $\theta$ は $2\pi$ の整数倍の違いを除いて決まる)。さらに、複素平面に無限遠点を 1 点加えて球面と同一視するリーマン球面という発展もある。
ガウスは他にどんな貢献をしたか?
数論・幾何・統計・物理など極めて広範囲で、「数学の王」と呼ばれる。1799 年の学位論文は、代数学の基本定理(実係数の多項式の場合)の証明だった。