リー代数

Lie Algebra

リー代数とは

まず、リー群とは

リー群とは、であると同時に滑らかな多様体でもあり、群演算(積と逆元を取る操作)が滑らかな写像になっているものである。言い換えると、群の元を「連続的に動かせる」ような群である。

  • 回転群 $SO(3)$:3次元空間での回転全体。回転角度を少しずつ変えられる
  • 一般線形群 $GL(n)$:正則な $n \times n$ 行列全体。行列の成分を連続的に動かせる
  • ユニタリ群 $U(n)$:量子力学で現れる、ノルムを保つ変換全体

リー群は物理学において対称性を記述するのによく使われる(回転対称性を $SO(3)$ で、ゲージ対称性を $SU(n)$ で記述するなど)。しかし、リー群の定義自体は「対称性を持つ」ことではなく、あくまで「群構造と滑らかな多様体構造が両立している」ことである。

図1:リー群 = 群 ∩ 多様体

合成・逆元 多様体 微分可能 リー群 群演算が滑らか 有限群 Sₙ Z/nZ 離散群 Zⁿ GL(n), O(n) U(n), SU(n) (R, +) Rⁿ 球面 Sⁿ トーラス Tⁿ

リー代数:リー群を線形化したもの

リー代数は、リー群の「単位元のまわりでの無限小の振る舞い」を抽出したものである。図2のように、曲がったリー群上の特別な点(単位元 $e$)での接空間を考え、そこに後述するリー括弧 $[X, Y]$ という演算を入れることで、幾何的な空間が代数構造を持つようになる。

図2:リー群(曲面)とリー代数(接平面)

𝔤 (リー代数) e(単位元) リー群 G 接平面 𝔤 はベクトル空間(線形) → 線形代数で解析できる

リー群は曲がった多様体だが、その接平面であるリー代数は平らなベクトル空間なので扱いが楽になる。複雑な非線形の問題を、扱いやすい線形な問題に「翻訳」できるのが大きな利点である。

※ 4次元以上では接超平面、一般に接空間と呼ぶ。なお、リー代数はあくまで単位元近傍の情報であり、リー群の大域的な構造(位相)は完全には捉えられない。実際、異なるリー群が同じリー代数を持つこともある。

どこで使われるか

物理学では角運動量の交換関係、素粒子物理のゲージ理論、量子力学の対称性など、あらゆる場面で現れる。純粋数学でも表現論、微分幾何、代数幾何で中心的な役割を果たす。

図3:リー群とリー代数の関係

リー群 G (滑らかな多様体) e(単位元) log exp リー代数 𝔤 (接空間+括弧積) [X, Y] = XY - YX リー代数は単位元での接空間にリー括弧を備えた代数構造 リー群を線形代数の言葉で記述できる 物理学:角運動量、ゲージ理論 | 数学:表現論、微分幾何 ※ log/exp は単位元近傍での局所的な対応(大域的には一対一でない場合がある)

本シリーズでは、リー代数の基本から半単純リー代数の分類、表現論まで4段階で体系的に学ぶ。

レベル別コンテンツ

主要な概念・公式

リー括弧の性質

$$[X, Y] = -[Y, X]$$

$$[X, [Y, Z]] + [Y, [Z, X]] + [Z, [X, Y]] = 0$$

キリング形式

$$B(X, Y) = \mathrm{tr}(\mathrm{ad}_X \circ \mathrm{ad}_Y)$$

$\mathfrak{sl}(2)$ の基底

$$[H, E] = 2E$$

$$[H, F] = -2F$$

$$[E, F] = H$$

ルート分解

$$\mathfrak{g} = \mathfrak{h} \oplus \bigoplus_{\alpha \in \Phi} \mathfrak{g}_\alpha$$

ワイルの次元公式

$$\dim V_\lambda = \prod_{\alpha > 0}\frac{(\lambda + \rho, \alpha)}{(\rho, \alpha)}$$

角運動量の交換関係

$$[L_x, L_y] = i\hbar L_z$$

($\mathfrak{so}(3) \cong \mathfrak{su}(2)$)

前提知識

  • 入門:線形代数(行列、固有値)、群論の基礎
  • 初級:入門の内容、抽象代数の基礎
  • 中級:初級の内容、線形代数(双対空間、双線形形式)
  • 上級:中級の内容、表現論の基礎、テンソル積