代数 初級

抽象代数学への入門:群・環・体(大学1-2年レベル)

初級の概要

初級では、大学数学の「抽象代数学」(現代代数学)の基礎を学ぶ。数の構造を一般化し、群・環・体といった代数的構造を理解する。

学習目標

  • 群の定義と基本性質を理解する
  • 具体的な群の例を通じて群論の感覚をつかむ
  • 環と体の概念を理解する
  • 多項式環の構造を学ぶ
  • 体の基本概念を理解する

目次(全 20 章)

導入

  1. 第1章 抽象代数学

    群・環・体の全体俯瞰

群論

  1. 第2章 モノイド

    結合的二項演算と単位元

  2. 第3章

    群の定義、部分群、置換群

  3. 第4章 アーベル群

    交換法則を持つ群

  4. 第5章 巡回群

    1つの元が生成する群

  5. 第6章 剰余類と正規部分群

    剰余類、正規部分群、核の対応

  6. 第7章 商群

    正規部分群による群の分割と同型定理

  7. 第8章 ラグランジュの定理

    部分群の位数は群の位数を割り切る

環・加群・体

  1. 第9章 環・加群・体

    環の定義、整域、体、イデアル、分数体、加群

多項式

  1. 第10章 多項式

    定義、演算、根、特殊多項式、補間、応用

  2. 第11章 二項定理

    二項展開と二項係数

  3. 第12章 部分分数分解

    有理関数の単純な分数の和への分解

  4. 第13章 判別式

    二次・三次・一般次数の判別式と応用

  5. 第14章 終結式

    Sylvester 行列・根の積による表示・判別式との関係

  6. 第15章 組立除法と Horner 法

    多項式の効率的評価アルゴリズム

  7. 第16章 デカルトの符号法則

    多項式の実根の個数の上界

  8. 第17章 3次方程式とカルダノの公式

    チルンハウス変換、カルダノの公式の導出、判別式と解の分類、還元不能の場合

  9. 第18章 4次方程式とフェラリの公式

    フェラリの方法、レゾルベント3次方程式、4次の判別式

歴史

  1. 第19章 多項式の歴史

    古代エジプトから現代ガロア理論まで 4000 年の歩み

練習

  1. 第20章 練習問題

    初級の総合演習

関連用語

  • 二項級数 — 一般二項定理 $(1+x)^\alpha$ の冪級数展開・一般二項係数・収束半径・$\sqrt{1+x}$ などへの応用を解説
  • べき乗和の公式 — $1^p+2^p+\cdots+n^p$ の閉形式(フォールハマーの公式・ベルヌーイ数)と導出・数値例を解説

前提知識

  • 代数 入門の内容(複素数、高次方程式)
  • 集合と写像の基本概念
  • 論理的な証明の基礎

「和」と「積」の代数的構造

代数学の根幹をなす二つの演算、「和」と「積」について、その共通性質と相互関係を概観する。

「和」の性質

「和」と呼ばれる演算の共通性質は結合法則交換法則である。

和の基本性質

  • 結合法則:\((X + Y) + Z = X + (Y + Z)\)
  • 交換法則:\(X + Y = Y + X\)
  • 単位元:\(X + 0 = X\) となる \(0\) が存在
  • 逆元:\(X + (-X) = 0\) となる \(-X\) が存在

積との重要な違い:和は同じ型同士でないと定義できない。

  • ベクトル + ベクトル = ベクトル ✓
  • ベクトル + スカラー = ? ✗(定義されない)
  • 一方、積は異なる型でも可能:スカラー × ベクトル = ベクトル

様々な「和」の例:

  • 数の加法:\(3 + 5 = 8\)、\((-2) + 7 = 5\)
  • ベクトルの和:$\begin{pmatrix} 1 \\ 2 \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} 3 \\ -1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 4 \\ 1 \end{pmatrix}$
  • 行列の和:$\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} 5 & 6 \\ 7 & 8 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 6 & 8 \\ 10 & 12 \end{pmatrix}$
  • 関数の和:\((f+g)(x) = f(x) + g(x)\)
  • 集合の直和:\(A \oplus B\)(代数的構造の直和)
  • 排他的論理和:XOR(\(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\) での加法)

「積」の性質

環や線形空間に現れる「積」に広く共通するのは双線形性(bilinearity)である。

双線形性とは

写像 \(f: V \times V \to W\) が双線形であるとは、各引数について線形であること:

  • \(f(aX + bY, Z) = a \cdot f(X, Z) + b \cdot f(Y, Z)\)
  • \(f(Z, aX + bY) = a \cdot f(Z, X) + b \cdot f(Z, Y)\)

主な「積」の比較:

演算 双線形性 結合法則 交換法則 備考
通常の積 \(xy\)
行列積 \(AB\)
内積 \(\langle X, Y \rangle\) スカラーを返す
外積 \(X \times Y\) 反交換性あり
リー括弧 \([X, Y]\) 反交換性 + ヤコビ恒等式
テンソル積 \(X \otimes Y\) 次元が積になる
ウェッジ積 \(\omega \wedge \eta\) 微分形式の積

結合法則や交換法則は演算によって成り立たないことがあるが、上に挙げた線形空間上の「積」には双線形性が共通して現れる。双線形性は、こうした線形代数的な「積」を特徴づける本質的な性質と言える。

※ 群の演算は双線形性を持たない(線形空間上で定義されるとは限らない)。「双線形性」は線形空間上の「積」に特有の性質である。

読み物

  1. くくり出す勇気 ― 抽象代数はなぜ生まれたか [読み物]

    整数も、回転も、あみだくじも、同じ規則で動いていた。共通点だけをくくり出して名前をつける――それが「群」だった。抽象代数のうれしさを肩の力を抜いて語る。

  2. 解けないことを証明する ― 五次方程式とガロアの遺言 [読み物]

    二次・三次・四次には解の公式があるのに、五次には「ない」。しかも決して存在しないことが証明された。アーベルとガロアが残した「不可能性の証明」と、方程式と群を結ぶ橋の物語を肩の力を抜いて語る。

  3. 時計の上の足し算 ― あまりがつくる小さな世界 [読み物]

    時計は12をすぎると1に戻り、曜日は7でめぐる。割り算のあまりだけに注目すると、足し算も掛け算もそのまま持ち込める小さな数の世界が立ち上がる。合同とモジュラー計算の面白さを、ガウスの逸話やチェックディジットの話を交えて肩の力を抜いて語る。