リー代数 入門

Lie Algebra — Introduction (大学 2-3 年レベル)

このシリーズの目標

  • リー代数の定義と基本的な性質を理解する
  • リー括弧の意味を理解する
  • 行列から作られるリー代数の具体例に親しむ
  • 部分代数、イデアル、準同型の概念を学ぶ
  • リー群とリー代数の関係を直感的に理解する

前提知識

  • 線形代数(行列の演算、固有値、線形空間)
  • 群論の基礎(群の定義、部分群、準同型)

章の構成

読み物

概要

リー代数は、19世紀にノルウェーの数学者ソフス・リー(Sophus Lie)が進めた連続変換群(リー群)と無限小変換の研究から生まれた代数構造である(現代的な抽象的定義は後に整えられた)。リー群を線形代数の言葉で記述できる強力な道具となる。

具体的には、リー代数は線形空間にリー括弧 $[X, Y]$ という演算(双線形・交代的で、ヤコビ恒等式を満たす演算)を備えた構造である。

$\mathfrak{gl}(n)$ や、交換子について閉じた行列の部分空間では、リー括弧は $[A, B] = AB - BA$ で与えられる。この演算は常に $[A, B] = -[B, A]$ を満たし、多くの行列の組で $[A, B] \neq 0$(つまり $[A, B] \neq [B, A]$)となって、積の順序のずれを測る。

この入門では、まずリー代数の定義を学び、行列リー代数という具体例を通じて理解を深める。抽象的な概念も、行列という馴染みのある対象を通じて学ぶことで、自然に理解できるようになる。

よくある質問

リー代数を学ぶ前に何を知っておくべきですか?

線形代数(行列の演算、固有値、線形空間、基底と次元)と群論の基礎(群の定義、部分群、準同型)があれば十分である。微分積分は第 6 章のリー群との関係で接空間・指数写像を扱う際に必要になるが、直感的な理解で出発できる。大学 2-3 年生レベルを想定しており、物理を学ぶ学生にも適している。

リー代数とリー群の関係は?

リー群は微分可能多様体の構造を持つ群で、連続な対称性(回転・ローレンツ変換など)を記述する。リー代数はリー群の単位元における接空間にリー括弧を備えたもので、線形空間の言葉でリー群の構造を扱える。指数写像 $\exp: \mathfrak{g} \to G$ により両者が結びつき、単位元の近くではリー群の積がリー括弧から(Baker–Campbell–Hausdorff の公式で)決まる。リー代数が同型なリー群は局所的に同型で、連結かつ単連結なリー群はリー代数から同型を除いて決まる。また、どの有限次元の実リー代数も、あるリー群のリー代数として現れる(リーの第三定理)。

リー括弧はなぜ非可換ですか?

行列リー代数では、リー括弧は交換子 $[X, Y] = XY - YX$ で与えられ、常に $[X, Y] = -[Y, X]$(反可換)を満たす。一般のリー代数では、双線形・交代的($[X, X] = 0$)でヤコビ恒等式を満たす演算として定義される。$[X, Y]$ は二つの無限小変換の順序を入れ替えたときのずれを測る量で、回転の合成のような非可換な対称性を表す。括弧がすべて 0 になる可換なリー代数もあり、これも基本的な例として重要である。

行列リー代数とは何ですか?

$\mathfrak{gl}(n)$(すべての $n \times n$ 行列)の線形部分空間で、交換子 $[A, B] = AB - BA$ について閉じたものを行列リー代数という。代表例は $\mathfrak{gl}(n)$、$\mathfrak{sl}(n)$(トレース 0)、$\mathfrak{so}(n)$(歪対称)、$\mathfrak{u}(n)$(歪エルミート)で、それぞれ古典群 $GL(n)$, $SL(n)$, $SO(n)$, $U(n)$ のリー代数として自然に現れる。具体的な行列計算でリー代数に触れられるため、抽象理論への橋渡しとして重要である。