球の体積 $\tfrac{4}{3}\pi r^3$ と表面積 $4\pi r^2$ の証明

Volume and Surface Area of a Sphere — 積分を使わない求積法

入門(高校数学レベル)

このページの目標

球の体積 $\tfrac{4}{3}\pi r^3$ と表面積 $4\pi r^2$ を、積分を使わずに(カヴァリエリの原理とアルキメデスの帽子箱定理で)証明する。あわせて、なぜ 3 次元では極限がいっそう避けにくいのかを理解する。

1. 何を証明するのか

球の体積 $\tfrac43\pi r^3$ と表面積 $4\pi r^2$ も、円の面積と同じく積分計算を使わずに導ける(ただし後で見るように、極限の考え方そのものは避けられず本質的である)。実際アルキメデスが紀元前 $3$ 世紀に『球と円柱について』で示したもので、彼はこの結果を最も誇りにした(球と外接円柱の図を自分の墓に刻ませたと伝わる)。

ここでも円のときと同じ約束をとる。円周率は円周と直径の比 $\pi = C/(2r)$ として定義し、そこから体積・表面積の値を導く。曲面で囲まれた立体をどう測るかがポイントである。

2. 球の体積:カヴァリエリの原理

道具はカヴァリエリの原理である:「$2$ つの立体を同じ高さで切った断面の面積が、どの高さでも等しいなら、$2$ つの体積は等しい」。直感的には、体積は薄い板(切片)を積み重ねたものであり、対応する高さの板が同じ面積(=同じ厚さなら同じ体積)なら、積み上げた総和も等しい、ということである。

半球(半径 $r$、平らな面を下)を高さ $y$ で水平に切ると、断面は半径 $\sqrt{r^2-y^2}$ の円で、面積は $\pi(r^2-y^2)$。 これを、「半径 $r$・高さ $r$ の円柱から、同じ底面・高さの円錐をくり抜いた立体」と比べる。この立体を高さ $y$ で切ると、半径 $r$ の円から半径 $y$ の円を除いた円環で、面積は $\pi r^2-\pi y^2=\pi(r^2-y^2)$。

カヴァリエリの原理の3D図(平行投影)。左は半透明の半球で、高さ y の断面は半径 √(r²−y²) の円板(赤)。右は半透明の円柱の中に頂点を下にした円錐があり、高さ y の断面は外半径 r・内半径 y の円環(赤)。左右の断面(円板と円環)は面積がともに π(r²−y²) で一致する。
図1. どの高さ $y$ でも、半球の断面(半径 $\sqrt{r^2-y^2}$ の円)と、円柱から円錐をくり抜いた立体の断面(外半径 $r$・内半径 $y$ の円環)は、面積がともに $\pi(r^2-y^2)$ で一致する。

どの高さでも断面積が一致 → カヴァリエリの原理により、半球の体積は「円柱 − 円錐」の体積に等しい。あとは円柱と円錐の体積だけで済む:

$$V_{\text{半球}} = V_{\text{円柱}} - V_{\text{円錐}} = \pi r^2\cdot r - \tfrac13\pi r^2\cdot r = \tfrac23\pi r^3.$$

したがって $$V_{\text{球}} = 2\times \tfrac23\pi r^3 = \frac{4}{3}\pi r^3.$$

これがアルキメデスの有名な結果、「球は外接円柱の $\tfrac23$」である(円柱の体積は $\pi r^2\cdot 2r=2\pi r^3$、その $\tfrac23$ が $\tfrac43\pi r^3$)。

ここで使った円錐の体積 $\tfrac13\pi r^2 h$ の $\tfrac13$ は、じつは有限個の切り貼りでは得られない(後述の第 5 節)。この段階ですでに極限が潜んでいる。

3. 球の表面積:アルキメデスの帽子箱定理

球に外接する円柱(半径 $r$・高さ $2r$)を考える。アルキメデスが見抜いた驚くべき事実がこれである。

アルキメデスの帽子箱定理(hat-box theorem)

球面を水平な $2$ 平面で切り取った帯(zone)の面積は、その $2$ 平面が外接円柱から切り取る側面の帯の面積に等しい。どちらも高さ差 $\Delta y$ の帯で、面積は $$2\pi r\,\Delta y.$$

半径 r の球が、それに外接する透明な円柱(半径 r・高さ 2r)にちょうど収まっている3D図。球の赤道が円柱の側面に接し、球の上端・下端が円柱の上面・下面に接する。
図2. 半径 $r$ の球と、それに外接する円柱(半径 $r$・高さ $2r$)。球面の面積は円柱の側面積 $2\pi r\cdot 2r=4\pi r^2$ に等しく、球の体積は円柱($2\pi r^3$)のちょうど $\tfrac23$。

なぜ球面で成り立つのか。 高さ $y$ での緯線(水平な円)の半径は $\rho=\sqrt{r^2-y^2}$、その周は $2\pi\rho$。ところが球面の帯は傾いているので、高さを $\Delta y$ 増やしたときの球面に沿った幅は $\Delta y$ より長く、$\dfrac{r}{\rho}\,\Delta y$ になる。この $\dfrac{r}{\rho}$ は、中心・球面上の点・軸がつくる直角三角形(斜辺 $r$・水平辺 $\rho$)から出る:球面の接線は半径に直交するため、帯は鉛直から角 $\varphi$($\cos\varphi=\rho/r$)だけ傾き、鉛直の高さ $\Delta y$ に対し斜めの幅は $\dfrac{\Delta y}{\cos\varphi}=\dfrac{r}{\rho}\,\Delta y$ となる。したがって帯の面積は

$$2\pi\rho \times \frac{r}{\rho}\,\Delta y = 2\pi r\,\Delta y.$$

つまり周が短くなる分($\rho$ に比例)と、斜面が伸びる分($\tfrac{r}{\rho}$ に比例)がちょうど相殺し、帯の面積は高さ $y$ によらず $2\pi r\,\Delta y$ になる。これは外接円柱の同じ高さの帯(半径 $r$ 一定なので面積 $2\pi r\,\Delta y$)と等しい。

球面全体は高さ $-r$ から $r$ までの帯の総和なので、

$$S_{\text{球}} = 2\pi r\cdot 2r = 4\pi r^2 = 4\times(\text{大円の面積 }\pi r^2).$$

4. 円との対応:$A=\tfrac12 rC$ と $V=\tfrac13 rS$

円の面積では、アルキメデスの結果は「円の面積 $=\tfrac12 r\cdot C$($C$ は円周)」だった。球ではこれに対応して

$$V_{\text{球}} = \tfrac13\,r\,S_{\text{球}} = \tfrac13\,r\cdot 4\pi r^2 = \tfrac43\pi r^3$$

が成り立つ。$2$ 次元の $\tfrac12$ が $3$ 次元では $\tfrac13$ になっただけで、「体積 $=\tfrac13\times$ 半径 $\times$ 表面積」という同じ形をしている(半径方向に薄い殻を積み上げる、錐の体積公式と同じ構造)。円と球が同じ骨格でつながっていることが見える。

5. アルキメデス自身はどう証明したか

本記事の証明はカヴァリエリの原理を使ったが、カヴァリエリは $17$ 世紀の人で、アルキメデス(紀元前 $3$ 世紀)の約 $1900$ 年もあとにあたる。アルキメデス自身は別の方法を用いた。彼は「発見」と「証明」を分けている。

① 発見:天秤にかける(『方法』)

アルキメデスはまず体積を天秤で発見した。球・円錐・円柱を薄い円板(厚み $\Delta x$)に分け、断面どうしを支点のまわりで釣り合わせたのである(支点からの距離が異なる棹秤(さおばかり)型。両側の板は同じ厚み $\Delta x$ をもつので、モーメントの比較では $\Delta x$ が打ち消し合い、断面積だけで釣り合いが決まる。原理はてこの原理)。$3$ つの立体を共通の軸にそろえ、軸に沿った位置を $x$ とする(円柱の底面で $x=0$上面で $x=2r$、すなわち $0\le x\le 2r$)。位置 $x$ での断面積は、円錐(頂点が $x=0$)が $\pi x^2$、(直径 $2r$)が $\pi x(2r-x)$、円柱(半径 $2r$)が $4\pi r^2$ である(図3)。

円錐・球・円柱を半透明の3Dで描き、位置 x の断面を少し濃い色の薄い円盤で示した図。左に縦の x 軸(下端 x=0、上端 x=2r)。断面積は円錐(頂点 x=0)が πx²、球が πx(2r−x)、円柱(半径 2r)が 4πr²。 $x{=}2r$ $x$ $x{=}0$ $\pi x^2$ $\pi x(2r-x)$ $4\pi r^2$
図3. 共通の軸に沿った位置を $x$ でとる(円柱の底面で $x=0$上面で $x=2r$)。円錐・球・円柱半透明で描き、位置 $x$ の断面を少し濃い薄型の円盤で示す(各パネル上の式が断面積)。

いま軸を天秤にのせ、$x=0$ を支点に合わせる。すると位置 $x$ の円柱断面うでの長さ $x$ のところにある。同じ位置 $x$ の「球断面+円錐断面」をうでの長さ $2r$ のところへ移すと、この円柱断面とちょうど釣り合う(図4):

$$\pi\bigl[x(2r-x)+x^2\bigr]\cdot 2r = \pi(2rx)\cdot 2r = 4\pi r^2\cdot x.$$

断面の天秤の3D図。支点の左(うでの長さ 2r)に円錐断面 πx²(橙)と球断面 πx(2r−x)(緑)を、右(うでの長さ x)に円柱断面 4πr²(青)を、薄い厚みの円盤として吊るす。天秤棒は水平で釣り合っている。立体そのものは天秤に載せない。 $2r$ $x$ $\pi x^2$ $\pi x(2r{-}x)$ $4\pi r^2$
図4. 断面の天秤(3D)。橙=円錐断面 $\pi x^2$、緑=球断面 $\pi x(2r-x)$、青=円柱断面 $4\pi r^2$。立体そのものではなく断面(薄い円盤)を吊るして釣り合わせている。

位置 $x$ ごとの釣り合いを、全スライスについて足し合わせる。ここで左右の扱いが非対称なのが要点である。左側では球断面+円錐断面を毎回支点の反対側の一点(距離 $2r$)へ運ぶので、断面積をただ総和すればよく、球と円錐がまるごと距離 $2r$ に吊るされたのと同じになる(モーメント $=2r\,(V_{\text{球}}+V_{\text{円錐}})$)。右側では円柱断面を動かさず各自の位置 $x$ に残すので、円柱全体はその重心に全体積 $V_{\text{円柱}}$ が集中したのと等価になる。しかも円柱は断面が一定=長さ方向に一様だから、重心はちょうど中点、すなわち距離 $r$ にある(モーメント $=r\,V_{\text{円柱}}$)。この「各断面をその位置 $x$ で重みづけして足す」和 $\sum x\cdot(\text{円柱断面})=r\,V_{\text{円柱}}$ こそが積分の正体であり、アルキメデスはそれを「一様な円柱の重心は中点にある」という既知の幾何学的事実で置き換えて、積分を回避しているのである。両者を釣り合わせると

$$2r\,(V_{\text{球}}+V_{\text{円錐}}) = r\,V_{\text{円柱}} \;\Rightarrow\; V_{\text{球}}+V_{\text{円錐}}=\tfrac12 V_{\text{円柱}} \;\Rightarrow\; V_{\text{球}}=4\pi r^3-\tfrac{8}{3}\pi r^3=\tfrac43\pi r^3.$$

積分近似の天秤の3D図。左(うでの長さ 2r)に、十数枚の薄板を積み重ねて近似した階段状の円錐(橙)と球(緑)をまるごと吊るす。右(うでの長さ r)に、十数枚の薄板に分割した円柱(青)を横倒しにして重心 x=r で吊るす。天秤棒は水平で釣り合っている。 $2r$ $r$
図5. 同じことを有限の薄板で近似した天秤。左(うでの長さ $2r$)には、十数枚の薄板でつくった階段状の円錐(橙)と球(緑)をまるごと——支点の反対側の一点に集めて——吊るす。右(うでの長さ $r$)には、同じ薄板に分けた円柱(青)を横倒しにして、その重心 $x=r$ の一点で吊るす。薄板を無限に薄くする極限が上の等式(=積分)にあたる。

いわば「積分を天秤で実行した」のである。ただしアルキメデス自身、これは板を無限に薄くする極限(不可分量)と物理(てこ)を使うので、発見の手段であって証明ではないと明言している。

② 証明:取り尽くし法(『球と円柱について』)

厳密な証明は、円の面積と同じ取り尽くし法(二重背理法)である。球に内接・外接する回転体——正多角形を直径のまわりに回してできる、円錐と円錐台(フラスタム)を積み重ねた立体——で球を挟む。

球を内接・外接する2つの回転体で挟んだ3D図。中央の赤い立体が内接する回転体(正六角形を直径のまわりに回した、上下の円錐と中央の円柱)で球の内側にある。外側の青い立体が外接する回転体(各面が球に接する)で、正六角形のため近似が粗く、円錐の先や円柱の側面が球から大きくはみ出している。間の球は緑。混色を避けるため外接→球→内接の順に不透明で重ね描きしている。 図6の断面。薄い緑の大円(球の断面)に、内接する正六角形(頂点が円上・赤)と外接する正六角形(各辺が円に接する・青)を重ねた図。半径 r。
図6. 球を内接・外接する2つの回転体で挟む(どちらも正六角形を直径のまわりに回した、上下の円錐+中央の円柱)。赤=内接する立体(球の内側)、緑=球青=外接する立体(各面が球に接する)。正六角形では近似が粗く、外接立体の円錐の先や円柱の側面が球から大きくはみ出す。右は軸を通る断面:薄い緑の大円(球)に内接する正六角形(頂点が円上・赤)と外接する正六角形(各辺が円に接する・青)が見える。辺数を増やすほど内接・外接とも球に近づき、両者の差(近似の誤差)が $0$ に向かう。

円錐・円錐台(円柱)の側面積・体積は曲面を使わず初等的に厳密に計算できる。これを使って、円の面積とまったく同じ二重背理法を回す。

二重背理法(取り尽くしの心臓部)

球の体積を $V$、目標値を $T = \tfrac43\pi r^3$(=底面が大円・高さ $r$ の円錐の $4$ 倍)とする。内接・外接する回転体は円錐と円柱だけででき、その体積は厳密に計算できて、つねに $V_{\text{内}} < T < V_{\text{外}}$ が示せる(円錐・円柱の体積の直接計算による)。しかも辺数を増やすと $V_{\text{外}} - V_{\text{内}}$ はいくらでも小さくでき、内接・外接とも球に迫る($V_{\text{内}} \to V$、$V_{\text{外}} \to V$)。

  • $V > T$ と仮定すると、$V_{\text{内}} \to V$ なので、ある内接立体で $V_{\text{内}} > T$ になってしまう。しかしつねに $V_{\text{内}} < T$ で、矛盾。
  • $V < T$ と仮定すると、同様にある外接立体で $V_{\text{外}} < T$ になってしまう。しかしつねに $V_{\text{外}} > T$ で、矛盾。

大小どちらの仮定も矛盾するので $V=T=\tfrac43\pi r^3$。$\blacksquare$(球面 $4\pi r^2$ も、側面積で同じ二重背理法を回せば得られる。)

こうして命題 I.33「球面 $=$ 大円の $4$ 倍 $=4\pi r^2$」、命題 I.34「球 $=$ 底面が大円・高さが半径の円錐の $4$ 倍 $=\tfrac43\pi r^3$」が得られる。系として球:外接円柱 $=2:3$——これがアルキメデスが墓に刻ませた図である。

歴史の余談:失われて再発見された『方法』

①の『方法』(エラトステネス宛の書簡)は長らく失われ、1906 年にハイベアが「アルキメデス・パリンプセスト」から再発見した。それまで人々は②の厳密証明しか知らず、「彼はどうやって答えを思いついたのか」が長く謎だった。①のスライスを釣り合わせる発想は、天秤を外して「断面積が等しければ体積も等しい」と公理化したカヴァリエリの原理(1635)や、のちの積分へと受け継がれている。本記事の証明は、その近代版にあたる。

6. なぜ 3 次元では極限がさらに避けにくいのか

円のときと同じく、積分は避けられるが極限は避けられない。しかも $3$ 次元では、その壁が円より一段深いところに現れる。

(この節は高校数学を少し超える発展的な話題である。公式とその証明だけ知りたい読者は「まとめ」へ進んでよい。)

(a) カヴァリエリの原理そのものが極限

「断面を高さ方向に積み上げる」というカヴァリエリの発想(不可分量の方法)は、薄い切片の集積=極限にほかならない。帽子箱定理の「帯 $\Delta y$」も同様である。

補足:カヴァリエリの原理と(リーマン)積分はどう違うか

リーマン積分は、断面積 $A(y)$ を薄いスラブに刻んで足し、極限をとって体積の値そのものを出す道具である:$V=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\sum_i A(y_i)\,\Delta y=\int_a^b A(y)\,dy$。一方カヴァリエリの原理は、$2$ つの立体の断面積がどの高さでも等しければ体積も等しい($A_1(y)=A_2(y)\Rightarrow V_1=V_2$)と比較して結論するだけで、値は計算しない。

  • 目的:カヴァリエリは体積が等しいと示す(相対)。リーマンは体積のを出す(絶対)。
  • 必要な情報:カヴァリエリは断面が等しいことと、対応させる既知の立体があればよい($A(y)$ の式は不要)。リーマンは断面積の関数 $A(y)$ とその積分が要る。
  • 極限:リーマンは $\sum\to\int$ の極限を明示する。カヴァリエリは表に出さないが、隠れている

実はカヴァリエリの原理は、積分(正確にはフビニの定理)のである:$A_1=A_2$ なら $\int A_1=\int A_2$ が積分の線形性・単調性から得られる。別方式ではなく、積分の一部の使い方にすぎない。歴史的にはカヴァリエリの「不可分量」($1635$)が積分の直観的な先駆けとなり、リーマン/ダルブー($1850$ 年代)が極限を厳密化した。

だからこそ、球の証明で使うカヴァリエリでは $\int A(y)\,dy$ という「積分の計算」は避けられる——断面の一致を見るだけで済む——が、「薄片を積み上げれば体積」という原理の正当性=極限からは逃げられない。これが本節の要点である。

(b) 円錐の $\tfrac13$ が有限分割では得られない

体積の証明では円錐(角錐)の体積 $\tfrac13\times$ 底面 $\times$ 高さを使った。ところがこの $\tfrac13$ は、有限個の切り貼りだけでは決して得られない。$2$ 次元では等積な多角形どうしが必ず有限分割で移し合えた(ボヤイ–ゲルビンの定理)のに、$3$ 次元ではこれが破れる

発展:ヒルベルトの第 3 問題(デーンの不変量)

「等体積な $2$ つの多面体は、つねに有限個に切って組み替えて一致させられるか?」——これはヒルベルトの第 3 問題(1900)で、弟子のデーンが同年にと解決した。正四面体は、等体積のどんな立方体とも分割合同ではない(「デーンの不変量」という、切り貼りで保たれる量が両者で異なる)。つまり角錐・円錐の体積 $\tfrac13$ は、$2$ 次元のような有限の初等操作では到達できず、極限(取り尽くし・カヴァリエリ)が本質的に必要になる。曲がった球に達する前の、錐の段階ですでにそうなのである。

結論。 球でも、避けられるのは積分であって極限ではない。そして $3$ 次元では「有限分割では届かない」壁が、曲面の球に達する前の多面体(錐)の段階から立ちはだかる——これが円との一番の違いである。

まとめ

  • 球の体積 $\tfrac43\pi r^3$:カヴァリエリの原理で「半球 = 円柱 − 円錐」を示す(どの高さでも断面積 $\pi(r^2-y^2)$ が一致)。
  • 球の表面積 $4\pi r^2$:アルキメデスの帽子箱定理(等しい高さの帯は同じ面積 $2\pi r\,\Delta y$)で外接円柱の側面積に等しい。
  • 円の $A=\tfrac12 rC$ に対応して、球は $V=\tfrac13 rS$。同じ骨格でつながっている。
  • 証明は積分を使わないが、極限は本質的に必要。しかも $3$ 次元では錐の段階(ヒルベルト第 3 問題)からすでに有限分割では届かない。

要するに、示されたのは次の $2$ 式である。

$$V_{\text{球}} = \tfrac13\,r\,S_{\text{球}} = \frac{4}{3}\pi r^3, \qquad S_{\text{球}} = 4\pi r^2.$$

球の公式は、高校で習う一つの式に見える。しかしその背後には、アルキメデスの取り尽くし法からヒルベルトの第 3 問題まで続く、「極限とは何か」という数学の深いテーマが隠れている。

よくある質問

Q1. 球の体積が $\tfrac43\pi r^3$ になるのはなぜか

半球を高さ $y$ で切ると断面は半径 $\sqrt{r^2-y^2}$ の円(面積 $\pi(r^2-y^2)$)で、これは半径 $r$・高さ $r$ の円柱から円錐をくり抜いた立体の断面(円環、面積 $\pi(r^2-y^2)$)とどの高さでも一致する。カヴァリエリの原理より両者の体積は等しく、$\pi r^3-\tfrac13\pi r^3=\tfrac23\pi r^3$ が半球、$2$ 倍して球 $=\tfrac43\pi r^3$。

Q2. 球の表面積が $4\pi r^2$ になるのはなぜか

アルキメデスの帽子箱定理により、球面を水平 $2$ 平面で切った帯の面積は、外接円柱の同じ高さの帯の面積に等しい(どちらも $2\pi r\,\Delta y$)。全体では球面積 $=$ 円柱の側面積 $=2\pi r\cdot 2r=4\pi r^2$ で、大円 $\pi r^2$ のちょうど $4$ 倍である。

Q3. 積分を使わずに証明できるか

できる。アルキメデスは微積分より約 $2000$ 年前に、体積は取り尽くし法(現代的にはカヴァリエリの原理)、表面積は帽子箱定理で求めた。積分は不要である。ただし面積や体積を極限(薄い切片の集積)として扱う点で、極限そのものは避けられない。

Q4. なぜ $3$ 次元では極限がさらに避けにくいのか

体積で使う円錐(角錐)の $\tfrac13$ 係数が、有限個の切り貼りでは得られないからである。$2$ 次元では等積な多角形が必ず有限分割で移し合える(ボヤイ–ゲルビンの定理)が、$3$ 次元ではこれが破れ、正四面体と等体積の立方体は分割合同でない(ヒルベルトの第 $3$ 問題・デーンの不変量)。球以前に錐の段階で極限が必須になる。

関連項目・参考資料

サイト内の関連ページ

  • 円の面積 — $2$ 次元版。$\pi r^2$ を積分を使わずに証明
  • 円柱 — 体積 $\pi r^2 h$・側面積 $2\pi rh$。球の外接立体
  • 角錐 — 体積 $\tfrac13 Sh$。カヴァリエリで使う円錐の仲間

参考資料