円の面積 $\pi r^2$ の証明

Area of a Circle — 積分を使わない求積法

入門(高校数学レベル)

このページの目標

円の面積が $\pi r^2$ であることを、積分を使わずに(アルキメデスの取り尽くし法で)証明する。あわせて、なぜ何らかの極限が避けられないのかを理解する。

1. なぜ証明が要るのか

円の面積 $\pi r^2$ は公式として暗記される。しかし長方形(縦 $\times$ 横)や三角形(底辺 $\times$ 高さ $\div 2$)と違い、円は曲線で囲まれているため、そのままでは「底辺 $\times$ 高さ」の発想が使えない。曲がった境界の内側の面積をどう測るかには、工夫が要る。

さらに見落とされがちな点がある。円周の公式 $C = 2\pi r$ に現れる $\pi$ と、面積 $\pi r^2$ に現れる $\pi$ が同じ定数であることは、まったく自明ではない。これを示すことも証明の一部である。

本ページでは円周率を円周と直径の比 $\pi := C/(2r)$ として定義し、そこから面積が $\pi r^2$ に等しいことを導く、という立場をとる。

2. $r^2$ に比例することは相似から(極限なし)

まず簡単な部分を片づける。半径 $r$ の円は、半径 $1$ の円を $r$ 倍に相似拡大した図形である。相似比 $r$ の拡大では、面積は線形寸法の $2$ 乗倍になる。したがって

$$\text{(円の面積)} = k\,r^2$$

という形になることは、拡大縮小(相似)だけから極限を使わずに分かる。残る問題は定数 $k$ の値である。以下で $k$ が円周率 $\pi$ に等しいことを示す。

3. 直観:扇形を並べ替える

円を中心から偶数個の細い扇形に切り分け、$1$ 枚おきに上下を反転させて交互に並べると、平行四辺形に近い形になる。

円を16個の細い扇形に分割し、1枚おきに上下反転して交互に並べ替えると、底辺が πr、高さが r の平行四辺形に近づくことを示す図。
図1. 円を細い扇形に切って交互に並べ替えると平行四辺形に近づく。上下の縁はそれぞれ円周の半分ぶんの弧からなるので底辺 $\approx \pi r$、斜めの辺は半径なので高さ $\approx r$。面積は $\pi r \times r = \pi r^2$。

この平行四辺形の底辺は、円周 $C = 2\pi r$ の半分、すなわち $\pi r$ に近い(上下の縁が円周を半分ずつ分け合う)。高さは半径 $r$ に近い。したがって

$$\text{面積} \approx (\text{底辺}) \times (\text{高さ}) = \pi r \times r = \pi r^2.$$

分割を細かくするほど縁の凹凸は目立たなくなり、平行四辺形に近づく。その極限で面積は厳密に $\pi r^2$ になる。

これは分かりやすい説明だが、「近づく」という言葉に極限が入り込んでいる点に注意。次節では、この極限を古代ギリシャ流にきちんと詰める。

4. アルキメデスの取り尽くし法(厳密・積分なし)

アルキメデス『円の測定』命題 1

円の面積は、一辺が半径 $r$、もう一辺が円周 $C$ に等しい直角三角形の面積に等しい:

$$\text{(円の面積)} = \tfrac{1}{2}\,r\,C = \tfrac{1}{2}\,r\,(2\pi r) = \pi r^2.$$

証明の道具は、円に内接する正 $m$ 角形と、円に外接する正 $m$ 角形である。$m$ を増やすと、両者は円を内と外から挟み込む。

内接する正多角形(青)と外接する正多角形(赤)で円(黒)を挟む図。m=6 では隙間が大きいが、m=12 では両側から円に密着する。
図2. 内接多角形(青)$<$ 円 $<$ 外接多角形(赤)。頂点数 $m$ を増やすと、内接・外接多角形はともに円に迫り、両者の面積差はいくらでも小さくなる。

正 $m$ 角形の面積は、中心から辺までの距離 $a$ と周の長さ $p$ を使って

$$\text{(正多角形の面積)} = \tfrac{1}{2}\,a\,p$$

と書ける(中心から各辺に下ろした $m$ 個の二等辺三角形に分け、$\tfrac12 \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ})$ を合計するだけ。ここに極限は要らない)。ここで $a$ は、下図のように中心 $O$ から辺に下ろした垂線の長さ(中心から辺までの距離)である。

円に内接する正六角形。中心 O から辺に下ろした垂線の長さが a(中心から辺までの距離)、中心から頂点までの長さが半径 r。a と辺の半分を2辺とする直角三角形の斜辺が r になる。
図3. 正六角形の例。中心 $O$ から辺までの垂線の長さが $a$(中心から辺までの距離)、頂点までが半径 $r$。$a$ と辺の半分を $2$ 辺とする直角三角形の斜辺が $r$ である。

$m$ を大きくすると:

  • 内接多角形:$a \to r$、周 $p \to C$。面積は下から $\tfrac12 rC$ に迫る。
  • 外接多角形:$a = r$(辺が円に接する)、周 $p \to C$。面積は上から $\tfrac12 rC$ に迫る。

二重背理法(取り尽くしの心臓部)

円の面積を $A$、目標値を $T=\tfrac12 rC$ とする。

  • $A > T$ と仮定すると、内接多角形をどれだけ細かくしても円との差を $A-T$ 未満にできるので、面積が $T$ を超える内接多角形が作れてしまう。しかし内接多角形の面積は常に $\tfrac12 a p < \tfrac12 rC = T$ で、矛盾。
  • $A < T$ と仮定すると、同様に外接多角形の面積を $T$ 未満にできるが、外接多角形の面積は常に $\tfrac12 rp > \tfrac12 rC = T$(外接なので $p>C$)で、矛盾。

大小どちらも矛盾するので $A = T = \tfrac12 rC = \pi r^2$。$\blacksquare$

この議論は積分を一切使っていない——アルキメデスは微積分の約 $2000$ 年前にこれをやってのけた。ただしその本質は「多角形と円の面積差をいくらでも小さくできる」という一点にあり、これはまさに取り尽くし=極限である。

5. なぜ極限は避けられないのか

「積分は避けられた。では極限そのものも避けられるのか?」——答えはである。理由を層に分けて示す。

(a) 面積の定義そのものに極限が入る

曲線で囲まれた領域の面積は、内側・外側から多角形で近似し、その上限(下限)として定義するしかない。つまり定義の段階で、実数の完備性(上限の存在)という形で極限が入り込む。

(b) 有限個の切り貼りでは届かない

多角形どうしであれば、面積が等しい $2$ つは有限個の切片に分けて組み替えることで互いに移し合える(ボヤイの定理(ボヤイ–ゲルビンの定理))。ここに極限は要らない。しかし円は多角形ではないため、この定理は使えない。

発展:有限の切り貼りでは足りない深い理由(タルスキの円積問題)

「円を有限個の断片に切って、組み替えて同じ面積の正方形にできるか?」という問いはタルスキの円積問題(1925)と呼ばれる。ラツコビッチ(M. Laczkovich, 1990)はこれが可能だと証明した。ただし断片は非可測集合(選択公理に依存)であり、定規とコンパスでも初等的でも構成的でもなく、しかも面積の値 $\pi r^2$ を与えるわけではない。これは「有限の初等的な切り貼りだけでは $\pi r^2$ に到達できない」ことの深い理由になっている。

結論。 $r^2$ への比例は相似だけから極限なしで得られる。しかし定数 $\pi$ を確定する部分と、面積を定義する部分には極限(取り尽くし・実数の完備性)が必要である。避けられるのは積分であって、極限ではない。

まとめ

  • 円の面積が半径の $2$ 乗に比例すること($=k r^2$)は、相似・拡大縮小だけから極限なしで分かる。
  • 定数 $k$ が円周率 $\pi$ に等しいことは、アルキメデスの取り尽くし法で示せる:円の面積 $=\tfrac12 rC = \pi r^2$。
  • 扇形を並べ替えて平行四辺形にする直観(底辺 $\pi r$・高さ $r$)が、この結果の見取り図を与える。
  • 証明は積分を使わないが、極限(取り尽くし)は本質的に必要である。
  • 円周の $\pi$ と面積の $\pi$ が同じ定数であることも、この証明で同時に示される。

要するに、示されたのは次の等式である。

$$\text{円の面積} = \tfrac{1}{2}\,r\,C = \tfrac{1}{2}\,r\,(2\pi r) = \pi r^2.$$

よくある質問

Q1. 円の面積が $\pi r^2$ になるのはなぜか

円を細い扇形に切って交互に並べ替えると、底辺が円周の半分 $\pi r$、高さが半径 $r$ の平行四辺形に近づく。よって面積は $\pi r\cdot r=\pi r^2$ である。厳密には、内接・外接する正多角形で円を挟み、両者の面積差をいくらでも小さくできること(取り尽くし法)から、円の面積が底辺 $r$・高さ 円周 の直角三角形の面積 $\tfrac12 r\cdot 2\pi r=\pi r^2$ に等しいと示せる。

Q2. 積分を使わずに証明できるか

できる。アルキメデスは微積分より約 $2000$ 年前に、内接・外接多角形による取り尽くし法で円の面積を求めた。積分は不要である。ただしこれは「面積」を極限(多角形近似の上限)として扱う議論であり、極限そのものは避けられない。

Q3. 極限をまったく使わずに証明できるか

できない。面積が半径の $2$ 乗に比例すること($=k r^2$)は相似だけから極限なしで分かるが、定数 $k$ が円周率 $\pi$ に等しいと確定する部分と、そもそも曲線で囲まれた領域の面積を定義する部分に、取り尽くし=極限(実数の完備性)が必要になる。多角形どうしなら有限個の切り貼りで面積を移せるが(ボヤイ–ゲルビンの定理)、円は多角形でないためこれが効かない。

Q4. 円周の $\pi$ と面積の $\pi$ はなぜ同じか

円周率 $\pi$ は円周 $C$ と直径の比 $C=2\pi r$ として定義される。アルキメデスの結果「円の面積 $=\tfrac12 r\cdot C$」に $C=2\pi r$ を代入すると面積は $\pi r^2$ となり、円周に現れる $\pi$ と面積に現れる $\pi$ が同じ定数であることが示される。両者の一致は自明ではなく、証明の核心の一つである。

関連項目・参考資料

サイト内の関連ページ

  • 円(円の方程式) — 座標平面での円の定義
  • 扇形 — 面積 $\tfrac12 r^2\theta$・弧長 $r\theta$
  • 正多角形 — アポテムと面積 $\tfrac12 ap$。取り尽くしに使う近似図形
  • 円環 — 2つの同心円に挟まれた領域の面積

参考資料