第1章 変化とは何か

身近な例から「変化」を理解する

入門

1.1 日常の中の変化

私たちの周りには「変化」があふれている。

身近な変化の例
  • 気温が時間とともに変化する
  • 預金が利子で増える
  • ボールを投げたときに、その位置が変わる
  • 車の速度が変わる

微分とは、このような「変化」を数学的に捉えるための道具である。

1日の気温変化 時刻 気温 0時 6時 12時 18時 24時 最高気温 最低気温

この図を見ると、気温が時間とともにどのように変化しているかがわかる。朝は気温が低く、昼に向かって上がり、夜にはまた下がっている。

1.2 位置と速度

「変化」を理解するために、最もわかりやすい例である「速度」を考えてみよう。

例題:車の移動

車が直線道路を一定の速さで走っている(出発地点を $0$ km とする)。

  • 1時間後:60km 地点にいる
  • 2時間後:120km 地点にいる
  • 3時間後:180km 地点にいる
等速運動のグラフ 時間 t(時間) 位置 s(km) 0 1 2 3 0 60 120 180 1時間 60km 傾き = 速度 = 60 km/h

このグラフでは:

  • 横軸が時間(独立変数:入力)
  • 縦軸が位置(出発地点からの道のり。従属変数:時間に応じて決まる量)

グラフが直線になっているのは、車が一定の速さで走っているからである。

重要な発見

グラフの傾き = 速度

位置-時間グラフの傾きは、その物体の速度を表している。

この例では車が一方向に進むので、速度と速さは一致する。途中で引き返すと位置は減っていくので速度は負になるが、速さ(単位時間あたりの移動距離)は正のままである。

1.3 平均変化率

ここで「変化率」という言葉を導入しよう。

定義:平均変化率

関数 $y = f(x)$ において、$x$ が $a$ から $b$ まで変化したとき($a \neq b$)、平均変化率は:

$$\text{平均変化率} = \dfrac{f(b) - f(a)}{b - a} = \dfrac{\Delta y}{\Delta x}$$

ここで $\Delta$(デルタ)は「変化量」を表す記号である。

平均変化率の意味 x y A (a, f(a)) B (b, f(b)) 割線 Δx = b − a Δy = f(b) − f(a) 平均変化率 = Δy / Δx

具体例で計算してみよう

例題:関数 $f(x) = x^2$ について、$x$ が $1$ から $3$ まで変化するときの平均変化率を求めよ。

解答

Step 1:各点での関数値を計算する

$$f(1) = 1^2 = 1$$ $$f(3) = 3^2 = 9$$

Step 2:変化量を求める

$$\Delta x = 3 - 1 = 2$$ $$\Delta y = f(3) - f(1) = 9 - 1 = 8$$

Step 3:平均変化率を計算する

$$\text{平均変化率} = \dfrac{\Delta y}{\Delta x} = \dfrac{8}{2} = 4$$
f(x) = x² の平均変化率 0 1 2 3 4 0 1 4 9 (1, 1) (3, 9) Δx = 2 Δy = 8 傾き = 8/2 = 4

※ この図と 1.4 節の図は、見やすくするため縦軸を横軸より縮めて描いている。そのため、直線の見た目の傾きは数値の傾きと一致しない。

この結果は何を意味しているのだろうか。

$x$ が $1$ から $3$ に変化する間、平均すると $x$ が $1$ 増えるごとに $y$ は $4$ 増えるということである。

注意:平均変化率は途中の様子を表さない

「平均変化率が $0$ なら、その区間では何も変化していない」と思いたくなるが、実は違う。

$f(x) = x^2$ で $x$ が $-1$ から $1$ まで変化するとき、$f(-1) = 1$, $f(1) = 1$ なので平均変化率は $\dfrac{1 - 1}{1 - (-1)} = 0$ である。しかし途中では、$y$ は $1$ から $0$ まで下がり、再び $1$ に戻っている。

両端が同じでも、途中の動きは違う x y −1 1 0 y = x² y = 2 − x² y = x³ − x + 1 両端を結ぶ線:傾き 0(3 つとも同じ)

上の図の 3 つの関数は、どれも $x = -1$ と $x = 1$ で値が $1$ なので、平均変化率はすべて $0$ であり、両端を結ぶ線(破線)も 3 つとも同じになる。しかし途中では、$y = x^2$ は下がってから上がり、$y = 2 - x^2$ は上がってから下がり、$y = x^3 - x + 1$ は上がって、下がって、また上がる。平均変化率だけを見ても、この違いは分からない。

平均変化率が表すのは始点と終点の差だけである。途中の変化を知るには、区間を細かく分けて調べる必要がある。

1.4 変化率は一定ではない

しかし、放物線 $y = x^2$ をよく見ると、場所によって傾き(急さ)が違うことがわかる。

区間を変えて平均変化率を計算してみよう。

f(x) = x² の各区間での平均変化率
区間 Δx f(始点) f(終点) Δy 平均変化率
$[0, 1]$ 1 0 1 1 1
$[1, 2]$ 1 1 4 3 3
$[2, 3]$ 1 4 9 5 5
$[3, 4]$ 1 9 16 7 7
区間によって傾きが違う 傾き=1 傾き=3 傾き=5 傾き=7 1 4 9 16 0 1 2 3 4 x が大きくなるほど 傾きが急になる
問題提起

「平均」ではなく、ある一点での変化率(瞬間の変化率)を知りたい場合はどうすればよいだろうか。

これが微分につながる核心的な問いである。

1.5 瞬間の変化率へ

車のスピードメーターを思い出してほしい。スピードメーターは「今この瞬間」の速度を示している。

これは「平均の速度」ではなく、「瞬間の速度」である。

平均の速度 vs 瞬間の速度 平均の速度 区間全体での 平均的な変化 → 極限操作 瞬間の速度 ある一点での 瞬間的な変化

数学的には、区間を限りなく小さくしていくことで、瞬間の変化率を求めることができる。

例えば $f(x) = x^2$ の $x = 2$ での瞬間の変化率を考える。1.4 節の表では、$x = 2$ を挟む区間 $[1, 2]$ と $[2, 3]$ の平均変化率は $3$ と $5$ であった。区間を $[1.9, 2]$ と $[2, 2.1]$ に縮めると、平均変化率は $3.9$ と $4.1$ になり、$4$ に近づいていく。

一般に、$h$ を $0$ に近づけたときの平均変化率 $\dfrac{f(a+h) - f(a)}{h}$ の行き先が、$x = a$ での瞬間の変化率である。式では次のように書く。

$$f'(a) = \lim_{h \to 0} \dfrac{f(a+h) - f(a)}{h}$$

ただし、この値が決まるのは右辺の極限が存在するときに限る。極限の正確な意味と、極限が存在しない例は次章以降で扱う。

この考え方が「極限」と「微分」の核心である。

瞬間の変化率という考え方は、数学の中だけのものではない。物理の速度や加速度、経済の限界費用、機械学習で損失を減らす方向を決める勾配など、「変化」を扱う多くの分野の土台になっている。

この章のまとめ

  • 変化は日常のあらゆる場面に存在する
  • グラフの傾きは変化の速さ(変化率)を表す
  • 平均変化率 $= \dfrac{\Delta y}{\Delta x} = \dfrac{f(b) - f(a)}{b - a}$
  • 曲線では、場所によって変化率が異なる
  • 瞬間の変化率を求めることが微分の目標

よくある質問

Q1. 「変化率」と「速度」の違いは何か

速度は「位置の時間に対する変化率」という特別な場合である。変化率はより一般的な概念で、任意の量 $y$ が別の量 $x$ に対してどれだけ変化するかを表す。気温の時間変化率、株価の変動率なども変化率の例である。

Q2. $\Delta x$ と $dx$ はどう違うか

$\Delta x$(デルタ x)は有限の変化量を表し、$dx$ はそれと同じ意味ではない。初等的な微分では、$\dfrac{dy}{dx}$ は導関数 $f'(x)$ を表すライプニッツの記法であり、$\Delta x \to 0$ としたときの $\dfrac{\Delta y}{\Delta x}$ の極限として理解する。$dy$ と $dx$ のそれぞれに意味(微分)を与える扱い方もあるが、それはより進んだ内容である。

Q3. 平均変化率は必ず正か

いいえ、関数が減少していれば負になる。$f(a) > f(b)$($a < b$)の場合、$\Delta y = f(b) - f(a) < 0$ なので平均変化率は負である。例えば気温が下がる午後から明け方にかけての時間帯では、変化率が負である。また、増減がない区間では $0$ になる。

練習問題

問1(基礎):関数 $f(x) = x^2$ で、$x$ が $2$ から $5$ まで変化するときの平均変化率を求めよ。

ヒント

$\dfrac{f(5)-f(2)}{5-2}$ を計算する。$f(2)=4$, $f(5)=25$。

問2(標準):関数 $f(x) = 2x^2 - x$ で、$x$ が $0$ から $2$ まで変化するときの平均変化率を求めよ。

ヒント

$f(0)=0$, $f(2)=2\cdot4-2=6$。平均変化率 $= \dfrac{6-0}{2-0} = 3$。

問3(応用):関数 $f(x) = x^2$ で、$x$ が $a$ から $a+h$ まで変化するときの平均変化率を $a$ と $h$ の式で表せ。

ヒント

$(a+h)^2 = a^2 + 2ah + h^2$ を展開すると、平均変化率 $= 2a + h$ となる($h \neq 0$)。$h \to 0$ とすれば?