解析接続
Analytic Continuation
上級
公開日: 2026-03-20 ・ 更新日: 2026-10-01
1. 一致の定理と解析接続の概念
定理(一致の定理)
$D$ を連結開集合とし、$f, g$ を $D$ 上の正則関数とする。$D$ 内に集積点を持つ集合 $S$ 上で $f = g$ ならば、$D$ 全体で $f = g$ である。
一致の定理は、正則関数が領域内の「小さな部分」の情報で完全に決定されることを意味する。これが解析接続の基礎をなす。
定義(解析接続)
$D_1 \subset D_2$ を連結開集合とし、$f_1$ を $D_1$ 上の正則関数とする。$D_2$ 上の正則関数 $f_2$ が $D_1$ 上で $f_1 = f_2$ を満たすとき、$f_2$ を $f_1$ の $D_2$ への解析接続(analytic continuation)という。これは $D_1$ を含むひとつの領域への拡張である。円を連ねて経路に沿って進める接続は §2・§3 で扱う。
例:幾何級数
関数 $f_1(z) = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} z^n$ は $|z| < 1$ でのみ収束し、その和は $\dfrac{1}{1-z}$ に等しい。一方 $f_2(z) = \dfrac{1}{1-z}$ は $\mathbb{C} \setminus \{1\}$ 全体で正則である。$D_1 = \{|z|<1\}$ 上で $f_1 = f_2$ なので、$f_2$ は $f_1$ の $\mathbb{C} \setminus \{1\}$ への解析接続である。
系(解析接続の一意性)
一致の定理より、$f_1$ の $D_2$ への解析接続が存在すれば、それは一意である。実際、2つの解析接続 $f_2, \tilde{f_2}$ は $D_1$ 上で一致するから、$D_2$ 全体で一致する。
解析接続の意味
べき級数は収束円の外では発散するが、それは級数表示が使えないだけで、関数そのものは収束円の外へ延びうる。解析接続は、ひとつの級数表示を超えて関数を延ばす方法を与える。ただし、上の系の一意性は、接続先 $D_2$ が $D_1$ を含む連結な領域である場合の話である。円を連鎖させて $D_1$ から離れた場所へ進むと、たどった経路によって異なる関数が得られることがあり(モノドロミー)、大域的に一価な関数が定まるとは限らない。これが §3・§4 の主題である。
2. べき級数の円による接続
解析接続の最も基本的な方法は、べき級数の収束円を重ねて連鎖的に拡張する方法(ワイエルシュトラスの方法)である。
- $z_0$ を中心とするべき級数 $\displaystyle\sum a_n (z - z_0)^n$ の収束円 $D_0$(半径 $R_0$)から出発する。
- $D_0$ 内の別の点 $z_1$ でテイラー展開し直すと、新しい収束円 $D_1$ を得る。
- $D_1$ が $D_0$ の外に広がっていれば、$D_0 \cup D_1$ に関数が拡張される。
- この手順を繰り返して、経路に沿って接続を進める。
第 2 段階の再展開は具体的には
$$f(z) = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} b_n (z - z_1)^n, \qquad b_n = \dfrac{f^{(n)}(z_1)}{n!}$$で与えられる。この新しい級数の収束半径 $r_1$ は常に $R_0 - |z_1 - z_0|$($z_1$ から $D_0$ の境界までの距離)以上である。$r_1 > R_0 - |z_1 - z_0|$ ならば $D_1$ は $D_0$ の外にはみ出し、元の収束円を超えて $f$ が拡張されたことになる。
3. モノドロミー定理
定義(経路に沿った解析接続)
曲線 $\gamma: [0,1] \to \mathbb{C}$ と、$\gamma(0)$ を含む領域 $D_0$ 上の正則関数 $f_0$ が与えられたとする。$f_0$ の$\gamma$ に沿った解析接続とは、各 $t$ で $\gamma(t) \in D_t$ かつ $f_t$ が $D_t$ 上で正則であり、近接する $t$ どうしの $D_t$ の重なりで関数が一致するような領域族 $(D_t)$ と関数族 $(f_t)$ のことをいう。終点 $\gamma(1)$ の近くで得られる関数 $f_1$($\gamma(1)$ における関数要素)が、$\gamma$ に沿った接続の結果である。
定理(モノドロミー定理)
$D$ を単連結な領域とし、$f$ を $D$ 内の点 $z_0$ の近傍で定義された正則関数とする。$z_0$ から出発する $D$ 内の任意の経路に沿って $f$ が解析接続可能であるならば、$f$ は $D$ 全体で定義される一価の正則関数に拡張される。
証明のアイデア
$D$ が単連結なので、同じ始点・終点を持つ2つの曲線は互いにホモトープ(連続的に変形可能)である。仮定によりホモトピーの途中のどの曲線に沿っても接続できるので、一致の定理から、接続の結果は曲線を少し動かしても変わらない。したがってホモトープな曲線に沿った接続は同じ結果を与え、終点での値は経路によらず well-defined となり、$f$ は一価関数として $D$ 全体に定まる。
逆に、単連結でない領域では異なる経路に沿った接続の結果が食い違うことがある。これが多価関数の起源である。たとえば $z=1$ の近くで選んだ $\log z$ の枝を $\mathbb{C} \setminus \{0\}$(非単連結)内の経路に沿って接続すると、原点のまわりを正の向き(反時計回り)に1周するごとに $2\pi i$ だけ値がずれる。この多価性をどう扱うかが次節の主題である。
4. 多価関数とリーマン面
非単連結な領域上では、関数によっては解析接続が経路に依存し、多価関数が生まれる。この多価性を一価関数として捉え直すための舞台がリーマン面である。リーマン面は 1 次元の複素多様体で、多価関数を一価化するときには、複数の「層(シート)」を切れ目に沿って貼り合わせ、必要なら分岐点を加えた面(分岐被覆)として構成されることが多い。
例:対数関数
$z = 1$ の近くで選んだ $f(z) = \log z$ の枝を、$z = 1$ から原点のまわりを正の向きに1周する曲線に沿って解析接続すると、元の値に $2\pi i$ が加わる。$\mathbb{C} \setminus \{0\}$ は単連結でない(原点を囲む曲線が縮約不可能)ため、モノドロミー定理は適用されない。$\log z$ を一価関数として扱うには、$\mathbb{C} \setminus \{0\}$ の普遍被覆空間(無限に重なる螺旋面)上で考える。
例:平方根
$f(z) = \sqrt{z}$ の場合、原点を1周すると $f$ は $-f$ に変わり、2周すると元に戻る。これを一価関数として扱うリーマン面は、原点から伸ばした切れ目(たとえば負の実軸)に沿って 2 枚の複素平面を互い違いに貼り合わせ、分岐点を加えた 2 重の分岐被覆である。分岐点 $z=0, \infty$ のまわりで2枚のシートが入れ替わる構造になっている。
5. 代表的な例
5.1 リーマンのゼータ関数
ディリクレ級数 $\zeta(s) = \displaystyle\sum_{n=1}^{\infty} n^{-s}$ は $\mathrm{Re}(s) > 1$ でのみ収束する。しかし解析接続により $s = 1$ の単純極を除く $\mathbb{C}$ 全体に拡張される。
接続の一つの方法は、交代ゼータ関数(ディリクレのイータ関数)
が $\mathrm{Re}(s) > 0$ で収束し、そこで正則であることを利用する(右の等式はまず $\mathrm{Re}(s) > 1$ で成り立つ)。$\zeta(s) = \eta(s)/(1 - 2^{1-s})$ とおけば $\zeta$ は $\mathrm{Re}(s) > 0$ へ延びる。分母が 0 になる点 $s = 1 + 2\pi i k/\ln 2$($k \neq 0$)では $\eta$ も 0 になり、そこは除去可能であるので、残る極は $s = 1$ だけである。さらに関数等式
により $\mathrm{Re}(s) \le 0$ にも拡張される(右辺の $\zeta(1-s)$ は $\mathrm{Re}(1-s) \ge 1$ なので既に分かっている。$s = 0$ では $\sin$ の零点が $1-s = 1$ の極を打ち消す)。
5.2 ガンマ関数
$\Gamma(s) = \displaystyle\int_0^{\infty} t^{s-1}e^{-t}\,dt$ は $\mathrm{Re}(s) > 0$ で定義される(積分表示による定義)。ここで関数等式 $\Gamma(s+1) = s\,\Gamma(s)$ すなわち $\Gamma(s) = \Gamma(s+1)/s$ を繰り返し適用することで、$s = 0, -1, -2, \ldots$ の単純極を除く $\mathbb{C}$ 全体に解析接続される。これは積分表示と関数等式を組み合わせて接続を行う典型例である。
6. 自然境界
すべての関数が解析接続できるわけではない。収束円の境界がそのまま関数の「果て」になることがある。
定義(自然境界)
正則関数 $f$ の定義域 $D$ の境界 $\partial D$ が自然境界であるとは、$\partial D$ のどの点 $p$ についても、$p$ を含むどんな近傍へも $f$ を正則に延ばせない($D$ を超えて解析接続できる境界点が一つもない)ことをいう。
例:ラクナリ級数
級数 $f(z) = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} z^{2^n} = z + z^2 + z^4 + z^8 + \cdots$ は $|z| < 1$ で収束する。単位円 $|z| = 1$ 上のすべての点が特異点になっており、単位円が自然境界となる。したがってこの関数は単位円板の外へは一切接続できない。
定理(アダマールのギャップ定理)
べき級数 $\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty} a_k z^{n_k}$($a_k \neq 0$)の収束半径 $R$ が $0 < R < \infty$ で、指数列 $\{n_k\}$ がアダマールのギャップ条件
$$\dfrac{n_{k+1}}{n_k} \geq q > 1$$を満たすならば、円 $|z| = R$ は自然境界である。上のラクナリ級数は $n_k = 2^k$ でこの条件を満たす($q = 2$)。
7. シュワルツの鏡像原理
定理(シュワルツの鏡像原理)
$D$ を上半平面内の領域で、その境界の一部が実軸の開区間 $I$ であるとする。$f$ が $D$ 上で正則、$D \cup I$ 上で連続で、$I$ 上で実数値を取るならば、$D$ の実軸に関する鏡像を $D^*$ として、$D$ 上で $F = f$、$D^*$ 上で $F(z) = \overline{f(\overline{z})}$ と定めた関数 $F$($I$ 上では $f$ の値をとる)は $D \cup I \cup D^*$ 上で正則になる。すなわち $f$ は $D \cup I \cup D^*$ へ解析接続できる。
鏡像原理は、実軸上の境界条件を利用して正則関数を上半平面から下半平面へ「反射」させる手法である。等角写像の構成や、リーマンの写像定理の境界への拡張において重要な役割を果たす。
8. 応用
8.1 特殊関数の定義
多くの重要な関数(ガンマ関数、ゼータ関数、超幾何関数など)は、最初は積分やべき級数として限られた領域で定義され、解析接続によってより広い領域に拡張される。解析接続は、特殊関数が自然に延びる範囲(極や分岐を含めた姿)を明らかにする手段でもある。多価になる関数では、枝やリーマン面の選び方も合わせて決める必要がある。
8.2 積分やパラメータの計算
パラメータを含む積分や級数の値は、ある領域では計算が容易でも別の領域では発散することがある。解析接続できる場合には、計算しやすい領域で得た結果を別のパラメータ値へ「延長」できる。発散する量に値を割り当てる正則化(ゼータ関数正規化など)はこの考え方に基づくが、極での値の付け方などには別に規約が要る。
8.3 数論への応用
ゼータ関数や L 関数の解析接続は、素数分布や数論的な予想(リーマン予想を含む)の研究において基本的な役割を果たす。臨界帯における零点の振る舞いは、解析接続された関数の上で初めて議論できる。
9. よくある質問
Q1. 解析接続とは何か?
ある領域で定義された正則関数を、より広い領域へ正則に拡張する手法である。一致の定理により、元の領域を含む連結な領域への拡張は、存在すれば一意である。ただし円を連ねて経路に沿って接続する場合は、経路によって異なる枝に至ることがある。べき級数の収束円を重ねて連鎖的に拡張する方法が基本的である。
Q2. モノドロミー定理とは何か?
$f$ が単連結な領域 $D$ 内のあらゆる経路に沿って解析接続できるとき、接続の結果は経路によらず、$f$ は $D$ 上の一価の正則関数に拡張される、という定理である(端点を固定してホモトピックな 2 本の経路に沿った接続は一致する)。単連結でない領域では、関数によっては経路によって結果が変わり、多価関数が現れる。
Q3. 多価関数と解析接続の関係は何か?
$\log z$ や $z^{1/2}$ は分岐点のまわりを回る経路で接続すると、出発点に戻っても値が変わる。$\log z$ は正の向きに1周するごとに $2\pi i$ ずれ、$\sqrt{z}$ は1周で符号が反転する。これらをリーマン面の上で考えると、一価の正則関数として扱える。
Q4. ゼータ関数の解析接続とはどういうことか?
$\zeta(s) = \displaystyle\sum n^{-s}$ は $\mathrm{Re}(s) > 1$ でのみ収束するが、イータ関数で $\mathrm{Re}(s) > 0$ へ(分母の零点のうち $s = 1$ 以外は除去可能)、関数等式で $\mathrm{Re}(s) \le 0$ へ延ばすことで、$s = 1$(単純極)を除く $\mathbb{C}$ 全体に拡張される。リーマン予想はこの拡張された関数の非自明な零点が全て $\mathrm{Re}(s) = 1/2$ 上にあるという予想である。
10. 参考資料
- Wikipedia「Analytic continuation」(英語版)
- Wikipedia「Monodromy theorem」(英語版)
- Wikipedia「Lacunary function」(英語版、自然境界)
- Wikipedia「Schwarz reflection principle」(英語版)
- L. V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1979.
- E. C. Titchmarsh, The Theory of the Riemann Zeta-Function, 2nd ed., Oxford University Press, 1986.