コンピュータビジョンの歴史

History of Computer Vision

全体像:60 年の歩み

コンピュータビジョン (Computer Vision, CV) は「コンピュータに画像を理解させる」分野だ。1966 年の「夏休みの課題」をよく語られる出発点として(それ以前にも立体認識などの研究はあった)、幾何モデルの時代、手作り特徴量の時代を経て、2010 年代のディープラーニング革命、2020 年代のニューラル 3D 表現、そして基盤モデル・生成 AI へと発展してきた。まずは 60 年の全体像を 1 枚で眺めてみよう。

コンピュータビジョンの主な節目を時代帯で色分けした年表: 1966 MIT 夏季、1980s Marr、1999 SIFT、2012 AlexNet、2020 NeRF、2023 3DGS、2024 以降 基盤モデル・生成 AI コンピュータビジョンの主な節目 古典・幾何の時代 深層学習 ニューラル 3D 基盤・生成 AI 1966 MIT 夏季 「視覚を解く」 1980s Marr 幾何モデル 1999 SIFT 特徴量 2012 AlexNet DL 革命 2020 NeRF 暗黙的 3D 2023 3DGS 高速 3D 2024〜 SAM2・Sora 基盤・生成
図 1. コンピュータビジョンの主な節目(1966 → 現在)。青=古典・幾何、緑=深層学習、橙=ニューラル 3D、紫=基盤モデル・生成 AI の 4 つの時代(色は注目を集めた流れで、前の時代の手法も今も併用されている)。

1960 年代:楽観の始まり

1966 年、MIT で「Summer Vision Project(夏季ビジョンプロジェクト)」と呼ばれる研究計画が立ち上がった。当時は「ひと夏あればコンピュータに視覚を与えられるのではないか」というほど楽観的に考えられ、その実装が学生に託された。しかし計画した目標には届かなかった。「見る」という行為は、当時考えられていたよりもはるかに難しい問題だった。

この時代の教訓:人間には一瞬でできる「見る」ことが、なぜ計算機には難しいのか。この問いが、その後 60 年の研究を駆動する出発点になった。

1980 年代:Marr の枠組み

David Marr は著書 Vision(1982)で、視覚を「段階的に表現を作り上げる情報処理」として整理した。計算論的な視覚研究(computational vision)に理論的な枠組みを与えた記念碑的な仕事であり、いまも視覚研究の基礎的な参照点になっている。

Marr の 3 段階の表現

  1. 原始スケッチ(primal sketch):エッジや輪郭など、画像から直接得られる基本的な特徴。
  2. 2.5 次元スケッチ:観測者から見た面の向きや奥行き(視点に依存した表現。「2.5」は次元の数ではなく、見えている面だけの奥行きという意味)。
  3. 3 次元モデル:視点によらない、物体そのものの形の表現。

1990〜2000 年代:特徴量とエンジニアリング

1999 年、David Lowe の SIFT(Scale-Invariant Feature Transform)が登場した。スケールや回転が変わっても安定して見つかる特徴点を検出し、その周辺を数値ベクトルで記述する手法だ。物体認識・パノラマ合成・Structure from Motion(多視点からの 3D 復元)の基盤になった。

同じ時期に、それ以前から生まれていた Harris コーナー検出(1988 年)、ハフ変換(1962 年)、エピポーラ幾何なども含めて、幾何モデルにもとづく手法が体系化されていった。「人間が良い特徴量を設計する」エンジニアリングの時代である。

この時代の代表的な道具

  • SIFT / SURF:スケール・回転に強い局所特徴。
  • Harris コーナー:画像中の角(コーナー)の検出。
  • ハフ変換:直線や円の検出。
  • エピポーラ幾何:2 枚の画像の対応づけと 3D 復元の基礎。

2010 年代:ディープラーニング革命

2012 年、AlexNet が ImageNet のデータを使う画像認識コンテスト(ILSVRC)で、誤り率(top-5 誤答率)約 15% を記録した。次点(手作り特徴量の手法)の約 26% を大きく下回り、研究者に衝撃を与えた。深層畳み込みニューラルネットワーク(CNN)が、それまでの手作り特徴量ベースの手法を一気に置き換えていく。

その後、VGG・ResNet といった深いネットワークへと発展し、ImageNet の分類では ResNet(2015 年)の top-5 誤り率 約 3.6% が、人の推定値(約 5%・一人の実験による目安)を下回った。2020 年には Transformer を画像に応用した ViT(Vision Transformer)が現れた。

転換点:「人間が特徴量を設計する」から「データから特徴量を学習させる」への大きな方針転換。特徴の学習は LeCun らの CNN(1998 年)などそれ以前から研究されていたが、AlexNet を境に現在の CV の主流になった。

2020 年代:3D とニューラル表現

2020 年、NeRF(Neural Radiance Fields)が登場した。カメラの位置・姿勢が分かっている多数の写真から、ニューラルネットワークそのものに「シーンの 3D 構造と見え方」を暗黙的に覚えさせ、新しい視点からの画像を生成する(撮られていない部分まで正しく再現できるわけではない)。

2023 年には 3D Gaussian Splatting(3DGS)が現れ、多数のガウシアン(ぼかした点)でシーンを明示的に表現することで、高速かつ高品質なレンダリングを実現した。NeRF と 3DGS は 3D 表現の最先端で、CG・VR・自動運転などを変えつつある。そして 2024 年以降、CV はさらに大きな変化を迎える。

2024 年以降:基盤モデルと生成 AI

2023 年以降も進歩は止まっていない。むしろ、これまで別々だった「認識」「生成」「3D」「言語」が、巨大な基盤モデル(foundation model。広いデータで事前に学習し、追加の学習などで様々な仕事に適応できるモデル)へと融合していく流れが加速している。

マルチモーダル基盤モデル:画像と言語を結びつけた CLIP(2021)を源流に、GPT-4o や Gemini のように画像とテキストを同時に扱う巨大モデルが実用化した。認識専用のモデルを一から作るのではなく、「見て・読んで・答える」汎用モデルを使い回す時代に入りつつある。セグメンテーションでも SAM(Segment Anything, 2023)から SAM 2(2024)へ進み、静止画から動画へと対象が広がった。

動画生成と世界モデル:Sora(2024)に代表される Diffusion Transformer が、テキストから高品質な動画を生成できるようになった。単に「見る」だけでなく、時間変化を予測する世界モデルへと研究が広がっている(ただし見た目が自然な動画でも、物理法則が正しく再現されるとは限らない)。

フィードフォワード 3D 復元:DUSt3R / MASt3R(2024)は、カメラの位置が未知の複数画像から、密な 3D をネットワークで一気に推定する。Depth Anything(2024)は 1 枚の画像から相対的な奥行きを推定する基盤モデルだ(メートル単位の距離は追加学習版で推定する)。3D Gaussian Splatting も、動く場面(4D)へと拡張が進んでいる。

近年の傾向:タスクごとに小さなモデルを設計する時代から、巨大な基盤モデルを幅広いタスクに使い回す時代へ。こうしたモデルは年々大規模化する一方、リアルタイム化や省メモリ化(エッジ AI)も同時に進む。CV は、言語・生成・3D と溶け合いながら進化を続けている。

まとめ

コンピュータビジョンの 60 年は、「見ることの難しさ」に人類が挑み続けた歴史だ。中心となる考え方は、時代ごとに次のように移り変わってきた。

時代代表技術中心のアイデア
1966MIT 夏季プロジェクト「視覚を解く」ことへの楽観と、その挫折
1980sMarr の枠組み視覚を段階的な表現の構築として整理
1999SIFT人が設計する、頑健な手作り特徴量
2012AlexNetデータから特徴量を学習する(DL 革命)
2020 / 2023NeRF / 3DGS画像から最適化する 3D シーン表現(NeRF=ニューラルネットの暗黙表現、3DGS=ガウシアンの明示表現)
2024〜基盤モデル / 生成 AI認識・生成・3D・言語の融合(SAM 2・Sora・DUSt3R)
  • 出発点は 1966 年の MIT 夏季プロジェクト。
  • Marr が理論的な枠組みを与え、SIFT が特徴量の時代を築いた。
  • 2012 年の AlexNet を境に、設計から「学習」へと主流が移った(特徴の学習の研究はそれ以前からある)。
  • 2020 年代は NeRF・3DGS による 3D 表現が進み、2024 年以降は基盤モデル・生成 AI へと融合が加速している。

よくある質問

SIFT はもう古いか?

深層学習の特徴量に押されつつあるが、スケールや回転に強く、学習用のデータが要らないため、今も 3D 復元(SfM)や画像の照合で使われる。リアルタイムの SLAM や AR では、より高速な ORB などが主に使われる。

CV と画像処理の違いは何か?

厳密な区別はないが、画像処理は「画像から画像へ」(フィルタリング・補正)、CV は「画像から意味へ」(認識・3D 復元) を扱う傾向がある。

これからの CV はどう発展するか?

より大規模な基盤モデル (CLIP, Segment Anything 等)、3D 復元と新しい視点の画像合成 (NeRF/3DGS の進化)、効率化 (エッジ AI) が見込まれる。