この記事の対象:ビジネス書・実用書
小説のように、最初から順に読まないと話が分からない本には向きません。
「読みたい本はたくさんあるけど、時間がない…」
「1冊読むのに1週間かかってしまう」
「積読がどんどん増えていく」
忙しいビジネスパーソンにとって、読書時間の確保は大きな課題です。 しかし、ビジネス書や実用書はすべてを最初から最後まで読む必要はありません。
この記事では、大学の授業1コマ分(90分)で本の全体構造を把握し、読むべき箇所を見極める方法を解説します。 これは「90分で本を完全に理解する」魔法ではなく、効率的に精読すべき箇所を特定するための下準備です。
この方法でできること・できないこと
90分でできること:
- 本の全体構造・論理展開を把握する
- 自分にとって重要な章・セクションを特定する
- 「この本は今の自分に必要か」を判断する
90分ではできないこと:
- 本の内容を深く理解する(別途精読が必要)
- 詳細な要約を作成する
- 実践に使えるレベルで知識を身につける
「最初から通読」と「概要把握→精読」の違い
| 最初から最後まで通読 | 概要把握→精読(この方法) | |
|---|---|---|
| 1冊にかかる時間 | 4〜8時間(全ページ読む) | 90分+精読2〜3時間(必要な章だけ) |
| 読まなくていい本 | 読み終わるまで判断できない | 30〜90分で「今は不要」と判断して次へ |
| 記憶への残り方 | 全体をうっすら覚えている | 重要な章は深く、他は構造だけ覚えている |
| 積読の消化 | 1冊ずつ時間をかけて読む | まず全部を概要把握し、精読すべき本を選別 |
結論:通読は「この1冊をじっくり味わいたい」とき向き。 概要把握法は「限られた時間で多くの本から必要な知識を得たい」とき向きです。
基本編:90分概要把握の5ステップ
なぜ90分で概要を把握できるのか?
ビジネス書の多くは、定型的な構成パターンに従っています。 この構成パターンを知っていれば、「どこに何が書いてあるか」を素早く見極めることができます。
ビジネス書の典型的な構成
- 序章:問題提起と主張の概要
- 第1〜3章:主張の根拠と具体例
- 第4〜6章:実践方法と事例
- 終章:まとめと行動への呼びかけ
90分でできるのは、この構造を把握し、「どの章を精読すべきか」を見極めることです。 休憩を挟みながら作業することで集中力を維持し、その後、重要な章を別途時間をかけて精読することで、効率的に本の内容を吸収できます。
5ステップの実践
なぜ90分? この時間設計の理由
集中力は約25分で低下し始めることが知られています※。 そこでこの方法では、20〜30分ごとに短い休憩を挟む設計にしました。
※ 参考:
・Ariga, A., & Lleras, A. (2011). Brief and rare mental "breaks" keep you focused: Deactivation and reactivation of task goals preempt vigilance decrements. Cognition, 118(3), 439-443.
・Helton, W. S., & Russell, P. N. (2015). Rest is best: The role of rest and task interruptions on vigilance. Cognition, 134, 165-173.
作業80分+休憩10分=90分という構成は、大学の授業1コマと同じ長さ。 「90分あれば1冊の概要が把握できる」という目安として覚えやすく、スケジュールにも組み込みやすい時間枠です。
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表紙・帯・目次を読む(5分)
まずは本の「設計図」を把握します。
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表紙・帯のキャッチコピー
出版社が「売り」にしているポイント、想定読者が分かる
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目次で全体像を把握
章立てから構成を理解し、重要そうな章に目星をつける
ポイント
この段階で「この本から何を学びたいか」を明確にすると、必要な情報を効率よく拾えます。
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「はじめに」と「おわりに」に目を通す(15分)
ここが最も重要なステップです。
「はじめに」と「おわりに」で探すべき情報
良い「はじめに」には、本の目的・想定読者・全体構成が書かれています。「おわりに」には本全体のまとめが書かれていることが多いです。 これらの情報があれば、本の主張の骨格を理解できます。
ただし、執筆の経緯や謝辞が中心の場合は、さっと流して次に進みましょう。
メモすべき3つの問い
- 著者が解決しようとしている「問題」は何か?
- 著者の「主張」は何か?(一言で言うと)
- その主張を支える「キーワード」は何か?
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各章の構造を確認する(30分)
各章の冒頭と結論部分をざっと確認し、全体像を把握します。
章の冒頭
この章で何を説明するかの予告
章の最後
この章のまとめ・ポイント
太字・見出し
著者が強調したい部分
この段階では内容を理解しようとしないことが重要です。 あくまで「どこに何が書いてあるか」の地図を作る作業です。
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精読すべき箇所を特定する(10分)
ここまでの情報を元に、後で精読する箇所を決めます。
精読候補の選び方
- 「自分の課題に直結する」章:今すぐ使える情報がある箇所
- 「よく分からない」部分:理解を深める必要がある箇所
- 「新しい概念が出てくる」章:本の核心部分
「自分の課題」が分からないときは
若手のうちは「自分の課題」がまだ言語化できないことも多いです。 その場合は、以下の視点で選んでみてください。
- 上司や先輩が言っていたことに関係する章
- 来週の仕事で使えそうな章
- 明日試せる具体的な手順が書いてある章
- 目次を見て「これ知らない」と思った章
注意
すべての章を精読する必要はありません。2〜3章に絞ることで、集中力を維持できます。
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概要メモと読書計画を作成する(15分)
最後に、把握した概要と次のアクションをメモします。15分あれば、手書きでもじっくりまとめられます。
概要把握メモのテンプレート
📖 書籍名:🎯 この本の主張(推測):
📚 精読する章:
□ 第 章(理由: )
□ 第 章(理由: )⏰ 精読に必要な時間(目安):このメモの役割
このメモは「要約」ではなく、精読のための計画書です。後日、このメモを見て精読を始めることで、効率的に本の内容を吸収できます。
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メモを読み直して振り返る(5分)
書いたメモを最初から読み直し、本の全体像を頭に定着させます。
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メモの通し読み
書いたメモを声に出して、または心の中で読み上げる。書いた直後に読むことで記憶に残りやすくなる
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自問自答
「この本は何について書かれていた?」「どの章を精読する予定?」と自分に質問し、答えられるか確認
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次回の予定確認
精読はいつやるか?カレンダーやToDoリストに入れておくと実行率が上がる
なぜ「書く」と「読み直す」を分けるのか
書く作業(出力)と読む作業(入力)は異なる認知プロセスです。 書き終えた直後に読み直すことで、「生成効果」と「検索練習」の両方が働き、記憶への定着が強化されます。
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応用編:目的・時間・本の種類で読み方を変える
90分概要把握法は万能ではありません。 目的・時間・本の種類に応じて柔軟に変えることで、より実践的な読書ができます。
読書の「目的」で読み方を変える
目的の4タイプ
- 即効型:明日の会議で使える数字・フレームワークを得る → 必要な部分だけ拾い読み
- 投資型:3ヶ月後のプロジェクトのための基礎知識を築く → 時間をかけて構造を理解
- 刺激型:新しいアイデアや視点を得る → 完全理解は不要、気になる部分だけ
- 参照型:辞書のように必要時に部分的に使う → 目次と索引を把握しておく
時間枠を先に決める
5分
目次・帯で「買うべきか」判断
90分
概要把握・精読箇所の特定
2〜3時間
重要章の精読
それ以上
全体精読・ノート作成・実践
90分の概要把握は、精読のための「準備段階」です。 その後の精読時間を別途確保することで、効率的に本の内容を吸収できます。
90分が取れないとき:30分版クイック概要把握
毎回90分を確保するのが難しい場合は、同じ5ステップを圧縮した30分版も有効です。
- 表紙・目次(3分):全体像をざっと把握
- はじめに・おわりに(10分):主張の骨格を理解
- 各章の冒頭だけ(10分):章の役割を確認
- 精読箇所を決める(5分):1〜2章に絞る
- メモ(2分):書名と精読予定章だけ記録
30分版は「精度より継続」を重視した設計です。90分版ほど深くはないですが、何もしないよりはるかに効果的です。
おすすめの使い分け例
- 新刊・話題の本 → まず30分版で「買うべきか」を判断
- 手元に積んである本 → 90分版でしっかり構造把握してから精読
典型的な1週間のスケジュール例
「いつやるか」が曖昧だと続きません。以下は忙しいビジネスパーソン向けの現実的なスケジュール例です。
| 曜日 | 時間帯 | 内容 |
|---|---|---|
| 月〜金 | 夜30分 | 30分版で候補本をスクリーニング(週3冊程度) |
| 土 or 日 | 午前90分 | 平日に選んだ1冊を90分版+精読 |
ポイント:平日は「選ぶ」、休日は「読み込む」と役割分担することで、無理なく継続できます。
本の種類に応じた読み分け
実用書の4タイプと最適アプローチ
- 手順書タイプ:手順・具体的方法が中心 → 必要な箇所だけ参照
- 理論書タイプ:概念・フレームワークが中心 → 構造を理解し応用を考える
- 事例集タイプ:ケーススタディが中心 → 自分との類似点・相違点を探る
- 啓発書タイプ:モチベーション・考え方が中心 → 気に入った部分だけ吸収
3段階の「関与レベル」を使い分ける
あなたの関与レベルを選択する
- 受け流す:「なるほど」で終了。記憶に残らなくてもOK。
- 選択する:使えそうな部分だけ取り込み、他は忘れる。
- 対話する:著者に同意・反論し、自分の考えを発展させる。
すべての本と「深く対話」する必要はありません。 8割の本は「受け流す」か「選択する」で十分です。
上級編:精読から実践へ
「構造は分かったが、実際に使えるレベルにならない」
「結論は覚えているが、なぜそう言えるのか説明できない」
90分の概要把握は、あくまで「入口」です。 本当に知識を身につけるには、精読と実践のステップが必要です。
概要把握から精読へ
概要把握で特定した「精読すべき章」を、時間をかけて読みます。 このとき重要なのは、結論そのものではなく、 どの条件で成立し、どこまで適用できるかを理解することです。
要点理解と構造理解の違い
- 要点理解:何を言っているか
- 構造理解:なぜそう言えるのか
- 適用理解:どこまで使ってよいか
問いを立てながら読む
常に立てるべき3つの問い
- この主張は、どんな前提条件で成立しているか?
- 条件が変わると、どこから破綻するか?
- 自分の現場では、何が不足しているか?
読書とは情報摂取ではなく、著者との思考の往復運動です。
要約ではなく「再構成」を行う
再構成ノートの基本フォーマット
- 著者の主張(原文ベース)
- 成立条件・前提
- 自分の状況での適用可否
- 修正・補足・留保事項
効率的な読書の全体像
3段階の読書プロセス
- 概要把握(90分):全体像を把握し、精読箇所を特定
- 精読(2〜3時間):重要章を時間をかけて読み込む
- 実践・復習:学んだことを試し、必要に応じて再読
90分で「完璧に理解する」のではなく、効率的に精読すべき箇所を見極めることが目的です。 効果的な復習タイミングについては「要約×復習で記憶を定着させる科学的読書術」で詳しく解説しています。
持続可能な読書のための心得
完璧なノートや要約は不要です。 「何もしない」より「少しだけする」ことで記憶定着率は大きく上がります。 1行メモ、3点引用、5分実践など、負担の少ないアウトプット方法については「読書×アウトプットで知識を自分のものにする方法」で詳しく解説しています。
まとめ
この記事のポイント
- 90分でできるのは「概要把握」:本の全体像を把握し、精読すべき箇所を特定する
- 90分では「要約」は作れない:深い理解には別途精読の時間が必要
- 休憩を挟んで集中力を維持:大学の授業と同じ90分構成で効率的に
- 概要把握→精読→実践の3段階:効率的に知識を身につける
「90分で本を完全に理解する」魔法はありません。 しかし、大学の授業1コマ分の時間で「どこを読むべきか」を見極めることで、 限られた時間を最大限に活用できます。
今日からできる一つの変化
次に本を手に取るとき、いきなり読み始めるのではなく、 まず90分で概要を把握してから「どの章を精読するか」を決めてみてください。 休憩を挟みながら取り組めば、集中力を維持しながら効率的に概要把握ができます。