入門

第3章: 円錐曲線の代数的記述

楕円・双曲線・放物線を 2 次曲線として統一的に扱う

円錐から代数まで

古代ギリシャの Apollonius (紀元前 3 世紀) は 円錐を平面で切った断面として円・楕円・双曲線・放物線を統一的に扱った。 切り口の傾きを変えると次のように異なる曲線が現れる:

  • 底面と平行 → 円
  • 傾けて両側を切る → 楕円
  • 母線と平行 → 放物線
  • 軸と平行 (両側の円錐を切る) → 双曲線 (2 本の枝を持つ)
双円錐を軸に垂直な平面で切ると断面に円が現れる立体図
— 軸に垂直に切る
双円錐を斜めの平面で切ると断面に楕円が現れる立体図
楕円 — 母線より緩く斜めに切る
双円錐を母線に平行な平面で切ると断面に放物線が現れる立体図
放物線 — 母線に平行に切る
双円錐を軸に平行な平面で切ると両側のナップを通り断面に双曲線の2本の枝が現れる立体図
双曲線 — 軸に平行に切る (両側)
図1: 双円錐 (青) を平面 (黄) で切った断面 (赤線)。切り口の傾きを変えると、 同じ円錐から円・楕円・放物線・双曲線が統一的に現れる。

17 世紀に Descartes が座標平面を導入した後、 これらすべてが 2 変数 2 次多項式の零点として書けることが明らかになった:

$$ax^2 + bxy + cy^2 + dx + ey + g = 0$$

つまり 「幾何学的な円錐の切り口」 = 「代数学的な 2 次曲線」という対応は、 代数幾何学の最初の大きな成果である。

標準形 (canonical form)

適切な座標変換 (平行移動 + 回転) によって、 2 次曲線は 標準形と呼ばれる簡潔な形に書き換えられる。 結果は次の 3 種類のいずれか (退化形を除く):

楕円 (中心が原点、 軸が座標軸に沿う場合)

$$\dfrac{x^2}{a^2} + \dfrac{y^2}{b^2} = 1 \quad (a, b > 0)$$

$a = b$ なら円。 $a > b$ なら長軸が $x$ 軸方向、 短軸が $y$ 軸方向の楕円。

xyab
図2: 楕円 ($a > b$ の場合)。長半径 $a$、短半径 $b$。

放物線

$$y^2 = 4px \quad (p > 0)$$

または $y = ax^2$ の形 (これは $x$ と $y$ の役割を入れ替えただけ)。 焦点 1 個と準線 1 本で定義される対称図形。

xy
図3: 放物線 $y^2 = 4px$ (右に開く)。頂点 1 個・対称軸 1 本をもつ。

双曲線

$$\dfrac{x^2}{a^2} - \dfrac{y^2}{b^2} = 1 \quad (a, b > 0)$$

2 本の枝を持つ。 漸近線 $y = \pm \dfrac{b}{a} x$ に近づく。

xya
図4: 双曲線。2 本の枝が破線の漸近線 $y = \pm\dfrac{b}{a}x$ に近づく。

判別式による分類

一般形 $ax^2 + bxy + cy^2 + dx + ey + g = 0$ が楕円・双曲線・放物線のどれに対応するかは、 判別式

$$\Delta = b^2 - 4ac$$

の符号で決まる:

判別式 曲線 幾何的特徴
$\Delta < 0$ 楕円型
有界・閉じた図形 (楕円・円)
$\Delta = 0$ 放物型
無限に延びる 1 本の曲線
$\Delta > 0$ 双曲型
2 本の枝を持つ

この命名は偏微分方程式の 2 階線形 PDE の分類 (楕円型・放物型・双曲型) と同じで、 同じ判別式が使われる。 これは偶然ではなく、 PDE の特性方程式が 2 次曲線になることに由来する。

確認例

(1) $x^2 + y^2 = 1$ (円): $a = c = 1, b = 0$, $\Delta = 0 - 4 = -4 < 0$ → 楕円型 ✓

(2) $y - x^2 = 0$ (放物線 $y = x^2$): 2 次の項は $-x^2$ のみで $a = -1, b = c = 0$, $\Delta = 0 - 0 = 0$ → 放物型 ✓

(3) $x^2 - y^2 = 1$ (双曲線): $a = 1, c = -1, b = 0$, $\Delta = 0 + 4 = 4 > 0$ → 双曲型 ✓

(4) $xy = 1$ (直角双曲線): $a = c = 0, b = 1$, $\Delta = 1 > 0$ → 双曲型 ✓

退化円錐曲線

「2 次方程式の零点」 は必ずしも普通の意味の楕円・双曲線・放物線になるとは限らない。 退化した形:

  • 2 直線の合併: $x^2 - y^2 = 0$ ⇔ $(x - y)(x + y) = 0$ → 2 直線 $y = x, y = -x$ の合併。 判別式 $\Delta = 0 - 0 = 0$ だが放物線ではない
  • 1 直線 (二重): $x^2 = 0$ ⇔ $y$ 軸が「2 重に」 描かれた直線
  • 1 点: $x^2 + y^2 = 0$ → 実数解は $(0, 0)$ のみ。 判別式 $\Delta = -4 < 0$ で「楕円型」 だが、 楕円の極限としての 1 点
  • 空集合: $x^2 + y^2 + 1 = 0$ → 実数解なし

これらの退化形は、 古典代数幾何の文脈では「楕円・双曲線・放物線の極限ケース」 として自然に出現する。 また 射影幾何学に移ると見え方が変わり、 例えば「平行な 2 直線」 と「交わる 2 直線」 の違いが消える。 詳細は中級で扱う。

5 点が定める 2 次曲線

2 次曲線 $ax^2 + bxy + cy^2 + dx + ey + g = 0$ は 6 個の係数 $a, b, c, d, e, g$ を持つが、 全体に定数倍しても同じ曲線なので、 自由度は 5。 したがって 一般の位置にある 5 点を指定すれば、 それらを通る 2 次曲線は (一般には) 一意に定まる。

これは線型代数の問題に帰着できる: 5 点 $(x_i, y_i)$ ($i = 1, \ldots, 5$) を通る条件は、 各係数についての 5 本の連立 1 次方程式

$$a x_i^2 + b x_i y_i + c y_i^2 + d x_i + e y_i + g = 0 \quad (i = 1, \ldots, 5)$$

これが 6 個の未知数についての 5 本の方程式なので、 一般には解空間が 1 次元 (定数倍を除いて 1 通り) になる。

この「5 点で 2 次曲線が決まる」 という事実は、 例えば射影幾何の Pascal の定理や Steiner の作図問題に応用される。

次のステップ

ここまでで 1 次曲線 (直線) と 2 次曲線 (円錐曲線) を多項式の言葉で記述できるようになった。 入門編はここまで。 中級編では:

  • 多変数の場合 (3 次元以上のアフィン代数多様体)
  • 射影空間と射影多様体の導入
  • 多項式の集合とイデアルの対応 (Hilbert の基底定理)
  • ザリスキー位相と既約分解

に進む。 また初級編 (basic/) の 古典代数幾何学 は本記事の続きとして読める。

よくある質問

判別式 $b^2 - 4ac$ は 2 次方程式の解の公式に出るものと同じか?

形は同じだが意味は違う。 2 次方程式 $at^2 + bt + c = 0$ の判別式は「実数解の個数」 を決める。 円錐曲線 $ax^2 + bxy + cy^2 + \cdots = 0$ の判別式は 2 次の項 (もとの方程式の主部) だけから定まり、 曲線の「型」 を決める。 両者が同じ式になるのは、 一次変換による 2 次形式の標準化に同じ代数構造が現れるため。

$xy = 1$ (直角双曲線) は判別式 $b^2 - 4ac = 1$ で双曲型と分類されるが、標準形には現れないのか?

$xy = 1$ は 45 度回転すると標準形 $\dfrac{x^2 - y^2}{2} = 1$ (双曲線の標準形) になる。 つまり座標系を回転すれば $b = 0$ にできる。 判別式は座標回転で不変なので、 「型」 は回転前後で変わらない。

退化した円錐曲線も代数幾何学の対象か?

はい。 むしろ古典代数幾何の中心テーマの一つが「曲線の特異点 (退化を含む)」 の研究。 退化円錐曲線 (2 直線の合併等) は 滑らかな円錐曲線の極限として現れ、 「曲線族 (family of curves) のモジュライ空間」 の境界に位置する。 これが中級・上級で深掘りされる。