代数 初級

抽象代数学への入門:群・環・体(大学1-2年レベル)

初級の概要

初級では、大学数学の「抽象代数学」(現代代数学)の基礎を学ぶ。数の構造を一般化し、群・環・体といった代数的構造を理解する。

学習目標

  • 群の定義と基本性質を理解する
  • 具体的な群の例を通じて群論の感覚をつかむ
  • 環と体の概念を理解する
  • 多項式環の構造を学ぶ
  • 体の拡大の基礎を学ぶ

目次

  1. 第1章

    群の定義、部分群、巡回群、置換群

  2. 第2章 剰余類と正規部分群

    剰余類(coset)、Lagrangeの定理、正規部分群

  3. 第3章 環と体

    環の定義、整域、体、イデアル

  4. 第4章 環論・加群論の基礎

    環・イデアル・商環・加群の基礎的定義

  5. 第5章 抽象代数学

    群・環・体の概論、代数的構造の全体像

  6. 第6章 組立除法とHorner法

    多項式の効率的評価アルゴリズム

  7. 第7章 デカルトの符号法則

    多項式の実根の個数の上界

  8. 第8章 練習問題

    初級の総合演習

前提知識

  • 代数 入門の内容(複素数、高次方程式)
  • 集合と写像の基本概念
  • 論理的な証明の基礎

「和」と「積」の代数的構造

代数学の根幹をなす二つの演算、「和」と「積」について、その共通性質と相互関係を概観する。

「和」の性質

「和」と呼ばれる演算の共通性質は結合法則交換法則である。

和の基本性質

  • 結合法則:\((X + Y) + Z = X + (Y + Z)\)
  • 交換法則:\(X + Y = Y + X\)
  • 単位元:\(X + 0 = X\) となる \(0\) が存在
  • 逆元:\(X + (-X) = 0\) となる \(-X\) が存在

積との重要な違い:和は同じ型同士でないと定義できない。

  • ベクトル + ベクトル = ベクトル ✓
  • ベクトル + スカラー = ? ✗(定義されない)
  • 一方、積は異なる型でも可能:スカラー × ベクトル = ベクトル

様々な「和」の例:

  • 数の加法:\(3 + 5 = 8\)、\((-2) + 7 = 5\)
  • ベクトルの和:$\begin{pmatrix} 1 \\ 2 \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} 3 \\ -1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 4 \\ 1 \end{pmatrix}$
  • 行列の和:$\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 3 & 4 \end{pmatrix} + \begin{pmatrix} 5 & 6 \\ 7 & 8 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 6 & 8 \\ 10 & 12 \end{pmatrix}$
  • 関数の和:\((f+g)(x) = f(x) + g(x)\)
  • 集合の直和:\(A \oplus B\)(代数的構造の直和)
  • 排他的論理和:XOR(\(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\) での加法)

「積」の性質

「積」と呼ばれる演算に共通するのは双線形性(bilinearity)である。

双線形性とは

写像 \(f: V \times V \to W\) が双線形であるとは、各引数について線形であること:

  • \(f(aX + bY, Z) = a \cdot f(X, Z) + b \cdot f(Y, Z)\)
  • \(f(Z, aX + bY) = a \cdot f(Z, X) + b \cdot f(Z, Y)\)

主な「積」の比較:

演算 双線形性 結合法則 交換法則 備考
通常の積 \(xy\)
行列積 \(AB\)
内積 \(\langle X, Y \rangle\) スカラーを返す
外積 \(X \times Y\) 反交換性あり
リー括弧 \([X, Y]\) 反交換性 + ヤコビ恒等式
テンソル積 \(X \otimes Y\) 次元が積になる
ウェッジ積 \(\omega \wedge \eta\) 微分形式の積

結合法則や交換法則は演算によって成り立たないことがあるが、双線形性はすべての「積」に共通している。これが「積」と呼ばれるための本質的な条件と言える。

※ 群の演算は双線形性を持たない(線形空間上で定義されるとは限らない)。「双線形性」は線形空間上の「積」に特有の性質である。