位相 (いそう)

正弦波 \(A\cos(\omega t+\phi)\) における \(\phi\) のこと (\(A\) は振幅という)。単位はラジアン [rad]。

慣用的には \(A\sin(\omega t+\phi')\) における \(\phi'\) を指す場合や、任意の周期波形 \(\displaystyle\sum_n A_n\cos(n\omega t+\phi_n)\) の基本波の位相 \(\phi_1\) を指す場合もある。

位相には \(2\pi\) の整数倍の不定性があるため、取り扱いに注意を要する場合がある。

人間の耳は正弦波の位相を知覚できないと考え、工学的には位相を軽視することが多いが、低い周波数の正弦波は、ある程度位相を知覚できる。

周期波形をスピーカ再生した場合、各倍音の位相を変えると、スピーカの非線形性のために、出力される音色は違って聞こえる。

位相スペクトル (いそうすぺくとる)

複素スペクトル \(X(\omega)\) に対して、その偏角 \(\arg(X(\omega))\) または偏角の主値 \({\rm Arg}(X(\omega))\) を位相スペクトルという。

【参考】 \(X(\omega)=0\) となる \(\omega\) では位相スペクトルは定義されない。

位相歪 (いそうひずみ)

線形時不変システムにおいて、周波数によって遅延時間が異なる場合に、「位相歪がある」とか「位相特性が悪い」などという。

位相歪みがあると、振幅特性が完全にフラットであっても、出力波形が入力波形と相似形にならない。

全周波数で遅延時間がゼロの場合、位相歪は無い。

全周波数で遅延時間がゼロ以外の一定値の場合も「位相歪」といえなくはないが、通常は「位相歪がある」とはいわず、単に「遅延がある」という。

異名現象 (いみょうげんしょう)

サンプリング周期が疎らすぎる場合に、元々存在しない成分が発生してしまう現象。

エイリアシング を見よ。

因果性 (いんがせい)

因果律を満たす性質のこと。

因果的 (いんがてき)

因果律を満たす性質を持つこと。

【参考】 因果的な線形時不変システムのインパルス応答 \(h(t)\) は \begin{equation} h(t) = 0,\ t\lt 0 \end{equation} を満たす。

因果律 (いんがりつ)

「原因となる事柄よりも前にその結果が生じることはない」という時間の前後関係に関する法則。 原因が先にあって結果が後から生じるのであり、結果が先にあって原因が後から生じるのではないこと。

インパルス (いんぱるす)

瞬間的に 0 以外の値を取り、それ以外は 0 であるような波形のこと。

連続時間では、以下を満たすディラックの \(\delta\) 関数 を「インパルス」と呼ぶ。 \begin{equation} \int_{-\infty}^{+\infty} \delta(t) f(t) d t = f(0) \end{equation} 離散時間では単位パルスを「インパルス」と呼ぶ。 \begin{equation} \delta(n) = \left\{ \begin{array}{lll} 1 & n=0, \\ 0 & n\neq 0 \end{array} \right. \end{equation}

インパルス応答 (いんぱるすおうとう)

線形時不変システムの振舞いを表す物理特性で、システムにインパルスを入力した時の出力波形のこと。

連続時間の場合、システムに任意の波形 \(x(t)\) を入力した時の出力 \(y(t)\) は、インパルス応答 \(h(t)\) と \(x(t)\) の畳み込み積分で表せる。 \begin{equation} y(t) = \int_{-\infty}^{+\infty} h(\tau) x(t-\tau) d\tau \label{yt} \end{equation}

通常の物理的なシステムは因果律を満たすため、インパルス応答 \(h(t)\) の負の時刻の値は 0 でなければならず、 \begin{equation} h(t) = 0,\quad t\lt 0 \end{equation} であるから、式(\ref{yt})は次式のように書き換えることができる。 \begin{equation} y(t) = \int_0^\infty h(\tau) x(t-\tau) d\tau \end{equation}

離散時間も同様で、任意の波形 \(x(n)\) を入力した時の出力 \(y(n)\) は次式で表せる。 \begin{equation} y(n) = \sum_{m=-\infty}^{+\infty} h(m) x(n-m) \end{equation} 因果的なシステムの場合は次式となる。 \begin{equation} y(n) = \sum_{m=0}^\infty h(m) x(n-m) \end{equation}

【参考】 インパルス応答のラプラス変換またはz変換伝達関数、インパルス応答のフーリエ変換を周波数特性という。

インディシャル応答 (いんでぃしゃるおうとう)

システムにステップ波形を入力した時の出力波形をインディシャル応答という。ステップ応答ともいう。

システムが連続時間で線形時不変な場合、インディシャル応答はインパルス応答を時間方向に積分したものになる。

インハーモニシティ (いんはーもにしてぃ)

主にピアノで、弦の固有振動数が基音の整数倍の周波数にならず、高次の固有モードほど周波数が整数倍よりも高めになる現象。

インハーモニシティがあるためピアノの調律は難しく、十二平均律に調律しただけでは和音が綺麗な響きにならない。このためピアノの低音弦は低めに、高音弦は高めに調律するストレッチ・チューニングが行われる。

なお、ピアノほどではないが、スチール弦を張るギター等にも弱いインハーモニシティがある。