平方完成を使わない2次方程式の解法

はじめに

2次方程式 \begin{eqnarray} f(x) &=& a x^2+b x+c=0,\quad a\neq 0,\ a,b,c\in\mathbb{R} \label{fx} \end{eqnarray} の解の公式 \begin{eqnarray} x &=& \frac{-b\pm\sqrt{b^2-4 a c}}{2a} \label{ans} \end{eqnarray} を導く際に用いる平方完成のテクニック (付録参照) に、知っていれば解ける、知らなければ自力ではなかなか思いつかない、天下り的な「トリッキーさ」を感じてしまうのは私だけでしょうか?

そこで、手数は少し多いのですが、トリッキーでない式(\ref{ans})の導き方を考えてみました。

平方完成を使わない解法

簡単のため、ここでは式(\ref{fx})が実根(実数解)を持つ場合に限定して考えましょう。

2 つの根を \(p_-,\ p_+\) と書くことにすると \begin{eqnarray} f(x)&=& a x^2+b x+c \\ &=& a(x-p_-)(x-p_+) \label{axpxp} \end{eqnarray} ですが、さらに 2 根 \(p_-,\ p_+\) の真ん中を \(m\) と書くことにします。 \begin{eqnarray} m &=& \frac{p_- + p_+}{2} \end{eqnarray} すると、点 \(m\) から 2 つの実根までは等距離 \begin{eqnarray} d &=& \frac{p_+ - p_-}{2} \end{eqnarray} にあり、次のように書くことができます。 \begin{eqnarray} p_+, p_- &=& m\pm d \label{pp} \end{eqnarray}


図1 : \(m\) を 2 実根 \(p_-,\ p_+\) の中点とする

式(\ref{pp})を式(\ref{axpxp})に代入すると \begin{eqnarray} \require{cancel} f(x)&=& a(x-p_-)(x-p_+) \nonumber\\ &=& a\{x-(m-d)\}\{x-(m+d)\} \\ &=& a\{x^2-(m-d)x-(m+d)x+(m-d)(m+d)\} \\ &=& a\{x^2-(m-\cancel{d}+m+\cancel{d})x+(m^2-d^2)\} \\ &=& a\{x^2-2 m x+(m^2-d^2)\} \\ &=& a x^2-2 a m x+a(m^2-d^2) \label{amx} \end{eqnarray} 式(\ref{amx})と式(\ref{fx})を見比べると \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{lll} b &=& -2 a m \\ c &=& a(m^2-d^2) \end{array} \label{bc} \right. \end{eqnarray} ですから、まず式(\ref{bc})の上 \(b=-2 a m\) より \begin{eqnarray} m &=& -\frac{b}{2a} \label{m} \end{eqnarray} が得られ、これを式(\ref{bc})の下 \(c=a(m^2-d^2)\) に代入して \begin{eqnarray} c &=& a(m^2-d^2) \nonumber\\ &=& a\left(\frac{b^2}{4a^2}-d^2\right) \\ &=& \frac{b^2}{4a}-a d^2 \\ \end{eqnarray} 移項して \begin{eqnarray} a d^2 &=& \frac{b^2}{4a}-c \\ \end{eqnarray} 両辺を \(a\) (仮定より \(a\neq 0\)) で割ると \begin{eqnarray} d^2 &=& \frac{b^2}{4a^2}-\frac{c}{a} \\ && 通分して \nonumber\\ &=& \frac{b^2-4a c}{4a^2} \\ && 両辺の平方根を取って \nonumber\\ d &=& \pm\sqrt{\frac{b^2-4a c}{4a^2}} \\ &=& \pm\frac{\sqrt{b^2-4a c}}{2a} \end{eqnarray} 距離 \(d\) が負になるのはおかしいので、複号は + を採用し \begin{eqnarray} d &=& \frac{\sqrt{b^2-4a c}}{2a} \label{d} \end{eqnarray} よって、2 実根 \(p_+, p_-\) は式(\ref{m})と式(\ref{d})を式(\ref{pp})に代入して \begin{eqnarray} p_+, p_- &=& m\pm d \nonumber\\ &=& -\frac{b}{2a} \pm \frac{\sqrt{b^2-4a c}}{2a} \\ &=& \frac{-b\pm\sqrt{b^2-4a c}}{2a} \end{eqnarray} となり、2次方程式の解の公式(\ref{ans})が得られました。重根の場合は \(d=0\) になります。

【参考】実係数多項式の根が複素数になる場合は共役複素数になることを前提に、上記導出法は (距離に関する記述に多少の書き換えは必要ですが) \(d\) を純虚数に取ることで共役複素根にも対応できます。

付録 : 平方完成を使う通常の解法

与えられた方程式(\ref{fx}) \begin{eqnarray} a x^2+b x+c &=& 0 \nonumber \end{eqnarray} の両辺を \(a\ (a\neq 0)\) で割って定数項を右辺に移項すると \begin{eqnarray} \require{color} \textcolor{red}{x^2 + \frac{b}{a}x} &=& -\frac{c}{a} \label{sq1} \end{eqnarray}

一般に \begin{eqnarray} x^2 + 2ux + u^2 &=& (x+u)^2 \end{eqnarray} が成り立ちますので \begin{eqnarray} \textcolor{red}{x^2 + 2ux} &=& (x+u)^2 - u^2 \label{sq2} \end{eqnarray} と書け、式(\ref{sq1}) の赤字部分と式(\ref{sq2}) の赤字部分を一致させるには \(u=\displaystyle\frac{b}{2a}\) にすればよいことに気づきます (というか、普通、このピンクで色付けしたトリックには気づきませんよね!)。

式(\ref{sq2}) に \(u=\displaystyle\frac{b}{2a}\) を代入すると \begin{eqnarray} \textcolor{red}{x^2 + \frac{b}{a}x} &=& \left(x+\frac{b}{2a}\right)^2 - \left(\frac{b}{2a}\right)^2 \end{eqnarray} この結果を使って式(\ref{sq1})の左辺を書き換えると \begin{eqnarray} \left(x+\frac{b}{2a}\right)^2 - \left(\frac{b}{2a}\right)^2 &=& -\frac{c}{a} \end{eqnarray} 移項して \begin{eqnarray} \left(x+\frac{b}{2a}\right)^2 &=& \left(\frac{b}{2a}\right)^2 - \frac{c}{a} \end{eqnarray} 平方根を取って \begin{eqnarray} x+\frac{b}{2a} &=& \pm\sqrt{\left(\frac{b}{2a}\right)^2 - \frac{c}{a}} \end{eqnarray} \(\displaystyle\frac{b}{2a}\) を右辺に移項して整理すると \begin{eqnarray} x &=& -\frac{b}{2a} \pm \sqrt{\left(\frac{b}{2a}\right)^2 - \frac{c}{a}} \\ &=& -\frac{b}{2a} \pm \sqrt{\frac{b^2}{4a^2} - \frac{c}{a}} \\ &=& -\frac{b}{2a} \pm \sqrt{\frac{b^2-4ac}{4a^2}} \\ &=& -\frac{b}{2a} \pm \frac{\sqrt{b^2-4ac}}{2a} \\ &=& \frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a} \end{eqnarray} となり、2次方程式の解の公式(\ref{ans})を導けました。